牛膝(いのこずち)その日暮らしの身は軽し |
侑 海 |
赤リンゴは美味しい十字架は痛い |
KIYOAKI FILM |
秋茜 流れるような風の糸 |
古澤 真翠 |
脈速くなれ鶏頭の赤くなれ |
小西 瞬夏 |
三百人乗りて伊吹島(いぶき)へ鰯雲 |
高木しげ子 |
都市伝説くらげの泳ぐ柱かな |
三好つや子 |
逝くものを逝かしめ青栗山に月 |
野田 信章 |
遊ぶって蚯蚓のすみか探すこと |
河野 志保 |
ざぶざぶと鍬を洗えば沢蟹や |
稲葉 千尋 |
こほろぎがモーツアルトを食ふてをり |
上村 良介 |
あおき懐(かい)よ梟の棲む旅鞄 |
若森 京子 |
桐一葉人とは美しき病 |
月野ぽぽな |
木も石も私も秋に凭り掛かる |
柴田 清子 |
かりんに傷きっと顕示欲だろう |
矢野千代子 |
あの雲に賭けてみないか虫しぐれ |
増田 天志 |
八月のゆるい寝息の映画館 |
桂 凛火 |
突然にうっと伸びきる曼珠沙華 |
漆原 義典 |
葛匂う女盛りの膝頭 |
小山やす子 |
鬼蓮に鼈(スッポン)昼寝ばった飛ぶ |
野澤 隆夫 |
秋の底陽の底水を持ち歩く |
亀山祐美子 |
蛇は穴にピカリピカリと偏頭痛 |
市原 光子 |
〈句会の窓〉
特選句・問題句へのコメントなど
野田 信章 ◆ 問題句「野葡萄や内耳に軍靴のひびき(若森京子)」と「声に似ず軍艦造りのちちろかな(漆原義典)」の句は、時代を踏まえて、その底に蠢くものを感知した句のようですが、
今一つ、響感を伴った句音の伝達に間怠っこしさを覚えます。どなたか、これらの句に共感された方の句評を願います。
稲葉 千尋 ◆ 私の特選句「野葡萄や内耳に軍靴のひびき」の、荒っぽい書き方は気になるが、一句を読み切った後の音感が私にはせまって来る。深読みすれば現政権への批判でもあろう。
問題句「愛読書拉致をしたのは鰯雲?(市原光子)」なぜ「?」がいるのか。
月野ぽぽな ◆ 特選句 「逝くものを逝かしめ青栗山に月」淡々とした追悼が心に沁みる。「蛇は穴にピカリピカリと偏頭痛」蛇の生態と自分の生理の響き合い。初な生き物感覚有り。
若森 京子 ◆ 特選句「山降る翁にもらう霧の杖(野﨑憲子)」一句に崇高な姿をみた、翁に貰った霧の杖が魔法の杖の様に思えるので不思議。
「八月のゆるき寝息の映画館」懐かしい寝息、映画館は全ての青春を呼びさましてくれる。
古澤 真翠 ◆ 特選句「内乱は鏡の月の冷たさよ(増田天志)」は、「鏡の月の冷たさよ」の表現に引き込まれました。「内乱は」と上句の切り込みにも
はっとさせられました。
増田 天志 ◆ 特選句「ふくしまや少女に蝶の甲状腺(若森京子)」デジャブな文言だが、福島に捧げたい。
「うじゃうじゃと私がいる秋の耳(野﨑憲子)」人が噂している被害妄想か。本当の自分を見つけたいのだろう。
小西 瞬夏 ◆ 問題句「月光が地球の間中を射抜いてゐる(上村良介)」について・・自由律のよう。内容はとてもダイナミックで神秘的なのだが、韻律がこれでいいのか。このリズムだからいいのか。
漆原 義典 ◆ 自句自解「秋晴やロゲの「トキオ」がこだまする」先日、七年後のオリンピック開催地が東京に決定し感動しました。その瞬間を一句に詠みました。
侑 海 ◆ 選句の感想です。
「かげろふよ永遠いまだ見つからず(上村良介)」「かげろふ」と「永遠」の対比が面白かった。
「高吟し彼奴訪ひ来る晩夏かな(野澤隆夫)」彼奴→アヤツ、それも高吟しというアヤツが気になります。
「秋茜 流れるような風の糸」とんぼを風の糸と、まさしくその通りだと思いました。
「脈速くなれ鶏頭の赤くなれ」ケイトウの花の葉脈が人の血管のように、目に見える様です。
「無花果を展き光へ遡る(月野ぽぽな)」イチジクの中の粒々一つ一つに生命が宿っているのを感じさせる句です。
「じゃんけんは誓いの言葉曼珠沙華(小山やす子)」遠い子供のころの風景が彼岸花と重なります。
「竜巻や修正液が足りません(市原光子)」竜巻の後の「むごさ」をよく表現していると思いました。
「稲光あんたの思う壺にはまる(柴田清子)」特選。ピッタリあなたの思う壺でした。私も入りました。
「月読尊とかわす麦酒かな(古澤真翠)」お月様とビールを飲むのは最高です。
「闇蹴破って釣瓶落しに逢いにゆく」特選。「闇蹴破って」のフレーズがとても力強くて大好きです。こんな風に彼が会いに来てくれたら最高かも!!
三好つや子 ◆ 特選句「蛇は穴にピカリピカリと偏頭痛」の「ピカリピカリと偏頭痛」が面白いですね。
問題句「ふくしまや少女に蝶の甲状腺」は、特選にしたいほど気に入っています。
ただ、下五の甲状腺が想定内でした。甲状腺を連想させる言葉を見つけて欲しいので、
あえて問題句に致しました。
河野 志保 ◆ 特選句「兵はずぶぬれ薄墨色の羽生えて(若森京子)」雨の中の兵士は「薄墨色の羽」があるように見えたのだろうか。
ずぶぬれになった無数の死を思った。戦争は人間を大切にしないとあらためて感じる。
KIYOAKI・FILM◆
特選句「木も石も私も秋に凭り掛かる」「木も石も」に続き、「私も」と言う所が。好きな句です。
問題句「脈速くなれ鶏頭の赤くなれ」面白いと思う。「鶏頭の赤くなれ」に「なれ」が二回出て来るし、
有名な俳句のイメージ?…パロディ?・・・(本歌取?)、
恥ずかしながら、知識がないので、批評できません。問題句と言えば、この句と思った次第です。
野﨑 憲子 ◆ 特選句「遊ぶって蚯蚓のすみか探すこと」私も、作者と一緒に「蚯蚓のすみか」を探したいと思いました。「遊ぶ」ということは、そういうことだと納得の一句です。
「都市伝説くらげの泳ぐ柱かな」巨大ビルにレイザ―光線で海月を現出している、そんな風景もいつかは都市伝説となる。時代を切り取る鋭い眼、映像性の高さにも惹かれました。
問題句「こほろぎがモーツアルトを食ふてをり」は、「食ふ」という一語が抜群に良いと思いました。「モーツアルト」も動かない、ちょっとカッコ良すぎて問題句にさせていただきました。
<袋回し句会>
我が孫を探すじいじの運動会 |
漆原 義典 |
秋探す手のやはらかきをとこかな |
亀山祐美子 |
ブロンズに帽子被せる晩夏かな |
野澤 隆夫 |
<青蜜柑> |
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今回は、事前投句のお一人一句掲載の他に、、<句会の窓>として、特選句問題句を中心に参加者有志のコメントを掲載させていただきました。
句会場に来れない遠方の方々の交流の場になればと、今月から句会報に「通信欄」を設け、その文章からの抄出です。一句掲載している作品の作者名は省きました。
9月句会の投句数は108句、除夜の鐘の数と同じでした。個性豊かな作品が集まり、句稿を作る作業がとても楽しかったです。全句掲載できないのが残念です。
袋回し句会は、先の事前投句の合評に熱が入り、時間が押してしまいました。それで、お題を5つに絞りました。こちらも、お一人一句の掲載としました。
お題の一つは、小山やす子さんがご自宅の庭から捥いできてくださった「酸橘」でした。どっさりの酸橘を、参加者全員で分けていただいて帰りました。小山さん感謝です!
実に様々な作品が生まれて来て面白かったです。句会の醍醐味は袋回し句会に有りとも思うこの頃です。また、俳句は、生ものであるということを実感いたしました。
ご参加の皆さまに、感謝、感謝です。
来月は、いつもの第67会議室が取れず、同じホール棟7階の和室での句会となります。ご参加、楽しみにしています。