香川句会報　第33回(2013.10.19)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

泪は颱風には似ない顔は細きライン河	ＫＩＹＯＡＫＩ　ＦＩＬＭ
瀬戸内の島の便りや種瓢（たねふくべ）	古澤　真翠
大勢で帰って来たよ彼岸花	河野　志保
秋蛍ほのかに出口らしきもの	増田　天志
巻きスカート重し眠し蝶渡る	若森　京子
耳そうじ秋雨前線北上中	小山やす子
生あくびしてゐる夜の茸たち	柴田　清子
一対のからだを解く赤とんぼ	桂　　凛火
獅子舞は我が原点だ還暦日	漆原　義典
豊の秋讃岐の山のまろきこと	亀山祐美子
口あくたびに鵲（かち）よ遠のく舟あそび	野田　信章
三日月より届いたもののひとつに羽	小西　瞬夏
我が心持て余す我秋刀魚焼く	侑　　　海
ハロウィーン土竜のてのひら桃色	稲葉　千尋
見つめあえば瞳は月の水源林	月野ぽぽな
干潮や釣瓶落しの中にゐる	高木しげ子
僕を見て金の卵が跳ねる秋	藤田　乙女
流木に青白き顔小鳥来る	田村　杏美
わかるけど鈴木しづ子よまず飯を食へ	上村　良介
芒野はゆっくりゆっくりひげ鯨	久保　智恵
家中で茹で栗穿（ほじ）る夜長かな	野澤　隆夫
文化の日キャベツを細くほそく切る	三好つや子
人間に躓き風の枯蟷螂	市原　光子
子犬の首つまむ九月の水量	矢野千代子
釣瓶落しアンパンマンの笑顔かな	野�ｱ　憲子

句会の窓

亀山祐美子

今日の句会も面白かったです。若い仲間が増えて増々す刺激的で楽しみです。特選句「大勢で帰ってきたよ彼岸花（河野志保）」彼岸花、死人花の句としては新しい捉え方だと思います。大災害を身に引き寄せた見方になっています。花の咲きようにも納得させられ、はっとしました。問題句「ハロウィーン切って作って嘘を着て（侑海）」…「嘘を着て」は好きですが、動詞三個は私には問題句です。中七で取れませんでした。

上村良介

今月の誤読●「大勢で帰ってきたよ彼岸花」。彼岸花って、この世とあの世の境目に咲いている花ってイメージあるじゃないですか。その彼岸花がダーって見渡す限り咲いているワケですよ。そこからなにかが「大勢で」帰ってくるワケですね、幽界から。ご先祖さまが。もう何百、何千というご先祖さま。いや、もういのちの起源からするとミジンコだって含まれているかもしれない。そうなると何万かもしれない。それらが帰ってくる。「帰ってきたよー」とか言いながら。ほとんど諸星大二郎（ご存知ないでしょうが）の世界。怖いですよ、これは。ホラーです。

増田天志

特選句「満月に梯子をかけて猫のぼりゆく（上村良介）」童話の世界に戻ろう。「一対のからだを解く赤とんぼ（桂凛火）」感性で味わいたい、エロスの句。

漆原義典

特選句「一つだけ聞いてほしくて千草かな（柴田清子）」は優しい気持ちが表現されており心穏やかになりました。もう一つの特選句「明晰な嘘ゆるされて秋の虹（桂凛火）」は虹を見て日常のなにげない行動をとらえる感性が素晴らしいと思いました。

野澤隆夫

10月「海程」香川、和室の素晴らしい会場での楽しい句会でした。ありがとうございます。今回の投句で改めて、投句の出来上がる過程を振り返ると面白く、いい勉強になりました。

（原　句）「台風逸れデパート立て看はや御節」→９月初旬西宮のデパートで早いおせちの立て看板にビックリし作句（なるほどの句）「デパートに御節の幟十三夜」・・・・・・・・・（そして決定稿の句）「デパートに御節の幟さんま旬」→全然違う季語が良かったと

（原　句）「曼珠沙華この道好きと吾プードル」→ 預かったプードルの散歩風景。何故かこの道が好きで引っ張られて…（なるほどの句）「プードルと吾との時間曼珠沙華」………・・・（そして決定稿の句）「プードルと駆けるこの道曼珠沙華」→句に繋がりが出来たかと…

侑　　海

特選句「大銀杏大爆笑のままマチネー（若森京子）」撥の様な葉が全て真黄色となったあの派手な素晴らしさをよく言い表していると思います。

特選句「てのひらにどんぐりひとつ資本主義（月野ぽぽな）」どんぐり貨幣。子供のころのごっこ遊びを思い出します。

問題句「泪は颱風には似ない顔は細きライン河（ＫＩＹＯＡＫＩ ＦＩＬＭ）」意味も構成もよく解りませんでした。

月野ぽぽな

特選句「我が心持て余す我秋刀魚焼く(侑海）」もうもうと上がる煙、ぶじぶじと滴る油。秋刀魚が焼かれてゆく様子が「上五中七」の心情とうまくオーバーラップする。

古澤真翠

特選句「永遠の原石であり露の玉（月野ぽぽな）」儚い露の玉を 永遠…と見たてた感性に心惹かれました。

特選句「握りしむ胡桃のなかに在る嵐（上村良介）」でこぼこゴツゴツした胡桃…その堅い殻の中に嵐を感じた閃きに 感服いたしました。

三好つや子

特選句「耳そうじ秋雨前線北上中（小山やす子）」一雨ごとに変わりゆく秋の風景と秋の音・・・。耳そうじが効いていると思います。

特選句「生あくびしてゐる夜の茸たち（柴田清子）」最近は壜の中での茸栽培が盛んです。そんな闇の世界で育つ茸が目に浮かびました。

注目句「百年後の卵ですから月うさぎ（増田天志）」百年後の卵って、冷凍の卵子や精子のことでしょうか。いろいろ想像できる素敵な句です。

若森京子

特選句「口あくたびに鵲(かち)よ遠のく舟あそび（野田信章）」鵲（かささぎ）は幸運を韓の国から運んで来るとか・・美意識と〈遠のく舟あそび〉の作者のノスタルジーの抒情が響き合う一句を昇華させている。〈口あくたび〉のリアリティーが足を地に着けている。好きな句です。

問題句「嗚呼フラメンコ律儀なる曼珠沙華（増田天志）」大変惹かれた句。〈嗚呼フラメンコ〉の発語は曼珠沙華から触発されたのであろう〈律儀なる〉の硬い生の言葉が消化不良で惜しい。

稲葉千尋

特選句「わかるけど鈴木しづ子よまず飯を食へ（上村良介）」わたしも読みました。まずめしを食への作者の思い、そしてゆっくり読むのだろう。

問題句「便箋をとばす黄セキレイの方法で（久保智恵）」感覚の鋭い句だが、「方法」が気になります。方法がなければ特選。

ＫＩＹＯＡＫＩ ＦＩＬＭ

特選句「獅子舞は我が原点だ還暦日（漆原義典）」言いたいことがはっきりしているので、伝わってくる勢いは、獅子舞の列が頭に残ります。

特選句「九月水光みでりの詩を欲る仲間朝の飢え」先生の俳句のようで、選びました。よく分りませんが、良いと言うことが「九月水光」でわかりました。

問題句「生あくびしてゐる夜の茸たち（柴田清子）」句会の紙を見ていると、皆が、問題句を目指しているようで、漫画っぽくって面白いです。一読して、問題句はこれです。「夜の茸たち」が気味悪いも、その気味悪さが問題句を誘います。茸スパゲッテイを喰って、初めは舌が気持ちいいですが、飲みながら、食っていると吐きそうになった体験が頭を抉ります。その胸の悪さを思い出して選びました。「夜の茸たち」の不気味さが好きです。（コカコーラ―、アイスコーヒーをがぶ飲みしながら、茸スパゲッテイを食った。）

河野志保

特選句「栗の虫無糖社会に慣れずいる（三好つや子）」難解な句だった。しかし繰り返し読んでいると、栗の虫と無糖社会の対比に響きあうものを感じた。人間界の常識なんて関係ないとばかりに、硬い実をほじって突き進む小さな虫。その愛らしさとそれに気づいた作者に脱帽。

特選句「これからが風のサーカス十三夜（野�ｱ憲子）」これからが…嵐の前の静けさといった状態だろうか。ざわついた心で十三夜を詠んでいるのがとても新鮮だった。

桂　凛火

特選にはしませんでしたが「文化の日キャベツを細くほそく切る（三好つや子）」細くほそくのところが粘っこくてふしぎな味わいがあり素敵でした。でも句の格とかということになると評価に迷いがでます。意見が分かれるところなんでしょうか。他の方の意見も伺いたいものです。

藤田乙女

学生時代の友人、野�ｱ憲子さんに強く勧められ、人生ではじめて俳句というものを作りました。少しずつ勉強していきます。よろしくおねがいします。

小西瞬夏

特選句「巻きスカート重し眠し蝶渡る（若森京子）」「巻きスカート」という素材を見つけた発見。「身に纏う」という言葉がぴったりくるような衣服である。また、ちょっと窮屈なようで、その分何か包まれ守られている感覚もある。それを「重い」と表現し、「眠い」という気分につなげる。その屈折感が「感情」という矛盾するものをリアルに感じさせる。何か億劫、でも一歩を踏み出したい、そして弱々しいながらも前に進もうとする、そんな心象が蝶の渡る姿に重なる。

問題句「さらば露草くるり貸間あります（増田天志）」「さらば」と「くるり」は露草にかかるのか。なんだかリズムが悪いようで意外にいいとも思える。「貸し間あります」との取り合わせが面白い。その部屋のそばに露草が咲いていたのか、貸し間とは、ただの部屋ではなく、何か他人を受け入れるスペース、ともとれるのか。印象に残る句なのだが、この整理されていない感じはどうなのだろう。この混沌がいいのか？

野�ｱ憲子

特選句「瀬戸内の島の便りや種たね瓢ふくべ（古澤真翠）」「「種瓢」に、作者の深い思いが籠められていると思いました。

問題句「百年後の卵ですから月うさぎ（増田天志）」するりんと生まれたようなケッタイナ俳句。でも不思議な味わいがあります。何で〈ですから〉ですか？と聞きたくなってしまいます。

袋回し句会

柱

夜なべする大きくて黒くて柱

柴田　清子

天井

天井の鬼の面ほどおどろおどろ

高木しげ子

緋

古稀妻に緋色の薔薇三十本

野澤　隆夫

颱風

颱風がもうじき来ます笑い猫

野�ｱ　憲子

秋

切株の秋の愁の銀になる

亀山祐美子

灯火

灯火親し島には島の夜があり

田村　杏美

缶コーヒー

コーヒーのかく苦々しさよ朝まだき

上村　良介