香川句会報 第34回(2013.11.16)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

吾は手を空をあふるる鰯雲高木しげ子
ひとつぶの雨水底へ水底へ上村 良介
岩に雨崩れし胸に鹿一つKIYOAKI FILM
いわし雲B級グルメ出陣式野澤 隆夫
熟柿食む背ナ無防備に日が沈む市原 光子
冬帽子中也のやうな眼かな涼野 海音
フランス風に枯葉ねじれねじれて寄り眼若森 京子
女から人間となる十三夜古澤 真翠
アサギマダラことば遅き児と等量矢野千代子
地図にないところにて冬籠りけり柴田 清子
武士(もののふ)のわびさび秋の鎌倉路漆原 義典
抱きしめて欲しいからウサギ動かない桂  凛火
凍蝶よ今わたくしの咀嚼音小西 瞬夏
初冠雪愛閉じ込めて琥珀織る侑   海
性格はこざっぱりなり零余子飯稲葉 千尋
二二ンが四呪文奏でる熟柿かな藤田 乙女
水草紅葉階段が浮いている三好つや子
眠らない利き腕戦場の夜空月野ぽぽな
人を待つごと光りたる秋の水田村 杏美
水っぽい産院のカレー冬茜小山やす子
天高しひじに扉をぶつけても河野 志保
デスマスクの白秋水光(みでり)の野は冬へ野田 信章
大根をやわらかく煮て生きてをり景山 典子
しぐれゆく軍楽隊に家鴨の子増田 天志
啄木鳥のかそけさ帰宅は奇妙に久保 智恵
鳥になる木の実何色神の留守亀山祐美子
輪郭は少女なりけり大狐火野ア 憲子

句会の窓‥通信欄より

月野ぽぽな
特選句「水っぽい産院のカレー冬茜」水っぽいカレーというのはよくあるものだが、「産院のカレー」と行ったことで生々しさが立ち上がり、カレーが奇妙な一回性の実態を持った。冬茜もその不思議 な実感に貢献。知っていたはず物がまるで初めてである物のように奇妙に見えるという、新しい出会いの快感があった。
田村杏美
特選句「輪郭は少女なりけり大狐火」ぽうっと光る狐火、そのかたちは少女の輪郭のよう。情景としておもしろく、怖いものみたさでつい近づいてしまうようなところがいいなと思いました。問題句というよりも面白い句「デスマスクの白秋水光の野は冬へ」とりあわせが良いですね。後半の拡がりもすてきです。デスマスクの白秋、ぜひ見てみたいなと思いました。
若森京子
特選句「啄木鳥のかそけさ帰宅は奇妙に」「啄木鳥のかそけさ」と「帰宅は奇妙に」の全然異なる言語の衝撃によって啄木鳥のこつこつとノックの様に打つ音が、又木のドアに立っている啄木鳥の姿から私に色々な第三のイメージを与えて呉れて、それが拡がってゆく面白さがある。問題句「アサギマダラことば遅き児と等量」大変好きな句だが、「等量」と答えが出ているので、これはことば遅き児と私の言葉が等量の意と思い惜しいと思う、しかしアサギマダラの発語は抜群だと思う。
景山典子
この度、初めて「海程」香川句会に参加させていただきました。伝統俳句から現代俳句に至るまで幅広い句に接しまた、個性豊かな会員のみなさまと、俳句について自由に意見を交換し合うことができ、とても刺激を受けました。今後も何らかの形で、この句会に参加させていただき、ともに学ばせていただきたいと思っております。よろしくお願い致します。
亀山祐美子
特選句「大根をやはらかく煮て生きてをり」こののんびりさ加減が好きです。 問題句「地図にないところにて冬籠りけり」特選にしたい位好きですが、‘ところにて’の‘にて’という、ことわりが気にいらないのと調べをもう少し滑らかに…と外野は欲を並べます。楽しい句会でした。ありがとうございました。ではまた来月を楽しみにしております・・
増田天志
特選句「凍蝶よ今わたくしの咀嚼音」感性の句。悪い子ね、凍蝶は噛み噛みしてはなりません。問題句「アサギマダラことば遅き児と等量」大器晩成型ですね。
古澤真翠
特選句「引き絞る弓矢の先の赤い月(上村良介)」月を観る作者の 心の緊張感が伝わってくるような…「引き絞る弓矢の先」には どのような「赤い月」が、…と暫らく引き込まれました。問題句「まどろみや耳に雪虫ぶらさげて(小西瞬夏)」「まどろみ」という表現に床しさを感じて 私なりに 作者の思いを想像させていただきましたが、「耳に雪虫」で・・となり「ぶらさげて」で、あらぁもったいなぁい。あの床しさをもう少し味合わせて〜と感じた次第です。
稲葉千尋
特選句「寒の月わたくしはもう売り切れです(月野ぽぽな)」あっけない物の言い方が好きです。問題句「滅亡説十一月の空近し(亀山祐美子)」十一月がいいのであとは書き方の問題です。
野田信章
特選句「凍蝶よ今わたくしの咀嚼音」掲句は、「凍蝶よ」との呼びかけのやさしさと相俟って、共生するいのちそのものへの感応が、咀嚼音の中にかみしめられている美しい句だ日常で書く、この姿勢の確かさは句柄は違うが「石蕗は黄に少しだけ事はやめよう(柴田清子)」の一句にも伺えるところ。句の表情のやわらかさの中に宿る生活感覚は地味だが確かな実意の手応えがある。地味と言えば、「十三夜虫も御観(おんかん)()読み始め(侑海)」「鐘つくや六十年後の冬桜(野ア憲子)」の二句の地味にして滋味なる句柄も捨て難い。次に問題句としては「アサギマダラことば遅き児と等量」と「啄木鳥のかそけさ帰宅は奇妙に」の二句に注目。共に意欲的で何かを書き切ろうとする姿勢はあるが、「等量」に「奇妙に」と納まった修辞では二物の配合を感覚的、有機的に書き切る前に状況説明に傾きはしないかと考える。
小西瞬夏
特選句「目薬すぐに乾けり冬のてんとう虫(野田信章)」「冬の蝶」「冬の蜂」などはよく目にするが「冬のてんとう虫」が新鮮。あのかわいらしい、ポップな色のてんとう虫が冬にいると、なんだか余計に寂しさがつのる。それを、「寂しい」とは言わず、「目薬が乾く」ということに重ねるという、センスの良さ、感覚の鋭さを感じる。問題句「フランス風に枯葉ねじれねじれて寄り眼」「枯葉」でジャズをイメージして「フランス風」「ねじれ」がなんとかつながるようにも思えるが、「寄り目」とは?なんとなく惹かれるが、納得はできていない句。
上村良介
今月の誤読●「地図にないところにて冬籠りけり」この地球上に「地図にないところ」というのはあるのか。むろん、ない。だがドラクエの世界は別である。地図に載ってない隠れ里や孤島がけっこうあったりする。そこに行くには村人の話を聞いてまわったり、飛行船を手に入れなければならない。行くと貴重なアイテムが手に入ったりするので、まあ、苦労して探すワケですよ。だが、冬になると年末や正月で忙しくなる。とうぜんゲームどころではなくなりセーブをかけて中断する。それが「冬籠りけり」。で、ひと段落して再開しようとするのだが、もうめんどくさくなって、けっきょく新しいゲームをすることになる。勇者や魔道師たちは冬籠りどころか永遠に籠もることになる。じつに悲しい。RPGマニアのわたしには、切なくも、共感できる句である。
涼野海音
無季語でも、季語以外の表現の「核」となる言葉が欲しい。
三好つや子
特選句「帯電の冬野ジュゴンと歩きます(市原光子)」雷の閃光が走る冬野を歩く作者の傍らで、ジュゴンが空中を泳いでる・・・。しかもジュゴンの顔は人間に似ているとか。シュルレアリズムの絵のような心象風景にぐっときました。「ひとつぶの雨水水底へ水底へ」水晶玉のように透明で、硬質感のある冬の雨が上手く表現されています。「寒の月わたしはもう売り切れです」春の月はやわらかでふっくらしています。そんな月が夏、秋を過ぎ、痩せていくように感じた作者の心理状態に共感。問題句「白息の総量一夫多妻制(月野ぽぽな)」面白い句だと思うのですが、作者の意図する事が、理解できませんでした。
KIYOAKI FILM
特選句「地図にないところにて冬籠りけり」とは、よく分からない面があります。何の事かな、と思います。昔の小説の題名を思い出しました。俳句の味を感じましたので、特選に選びました。あの小説…読もうと思って文庫買った、十七歳。読まなかったのです。問題句「冬帽子中也のやうな眼かな」問題句です。あの、中也の顔写真から造られたのでしょうか?そう思うと、わかるような気がします。でも、「やうな」「かな」「眼かな」もまさしく、問題句です。
野澤隆夫
「十三夜虫も御観(おんかん)()読み始め」虫も読経をするようです。この秋のお彼岸に、我が家の鈴虫も「正信偈」をお寺さんと一緒にあげてました。「冬帽子中也のやうな眼かな」特選句。中原中也がすぐ目に浮かび、でもどんな顔だったかなとネットの写真で確認。岩波の『美しい日本の詩』で、中也の′ホ上の詩を朗読。彼が七五調を使う達人とも解説されてました。「フランス風に枯葉ねじれねじれて寄り眼」問題句。七・三・七・三になっていても、すうっと読めて楽しいです。最後の「寄り眼」が効いてます。
小山やす子
特選句「しぐれゆく軍楽隊に家鴨の子」何処かユーモラスで楽しい。軍楽隊の様子が家鴨の子で生き生きと浮かび上がって居ます。「目薬すぐに乾けり冬のてんとう虫」目薬を差すという所作の中にちゆと可愛い天道虫の命が愛しく感じられました。「水草紅葉階段が浮いている」不思議な感覚で何故かモネの絵が浮かんで来ました。
河野志保
特選句「水草紅葉階段が浮いている」…絵画を見ているような静けさにひかれた。水草紅葉に「階段が浮いてる」と続けることで、彩り美しく不思議な風景が想像できた。同時に作者は少し翳った気分なのかなとも思った。
侑 海
特選句「鬼柚子の笑ひこぼれてさんざめく(亀山祐美子)」鬼柚子の破顔一笑の輝きがよく出ている句だと思いました。問題句「鳥になる木の実何色神の留守」ですが、よく読んでいたらとってもいい句なので、どう問題にしようかそちらを考えていて、遅くなってしまいました。神の留守と木の実の結びつきがよく解らなかったのですが、留守の間に木の実が鳥になるということなんですね!
藤田乙女
俳句の奥深さと、自分の洞察力のなさや語彙の少なさを実感する毎日です。家から見える富士山がとてもきれいです。
桂 凛火
特選句「吾は手を空をあふるる鰯雲」リズムの良さが魅力的でした。問題句「その皮の中の光体晩三吉(おくさんきち)(矢野千代子)」よくわからない固有名詞になぜか心惹かれました。
市原光子
特選句「デスマスクの白秋水光(みでり)の野は冬へ」白秋(秋)から冬への野のバトンタッチの様子がきらきらして見えてきます。問題句「羊数えて冬オリオンに激突す(小山やす子)」私好みの句ですが、もし羊が一匹、羊が二匹と数えているのでしたら「激突す」で、眠れなくなってしまいそう。
野ア憲子
特選句「抱きしめてほしいからウサギ動かない」揚句から、ウサギの体温が、可愛いしぐさが、伝わってまいります。こんな句を書きたいと思う一句であります。問題句「わたしだれ?一〇〇〇〇ページが黙す秋(藤田乙女)」この字余りの、?マークを使った型破りな句の中央にある一〇〇〇〇ページ(敢えて一万としなかったところも)が、気になってしかたありません。
(原文通り)

袋回し句会

十一月

始まりのかたち十一月の木洩日
野ア 憲子
十一月筆箱に筆なかりけり
柴田 清子
十一月七五三月ばあばの月
漆原 義典

雪女

雪女寂しき人等を抱きました
侑   海
胸元に氷の鏡雪女
景山 典子
雪女首に薄日の差しゐたり
涼野 海音
雪女やがては水となるをんな
上村 良介
前をゆく女なれども雪女
高木しげ子

からっぽになりて卵にもぐり込む
亀山祐美子
サンドイッチにはさむ卵と暮秋かな
田村 杏美
還暦を迎えし僕はまだ卵
漆原 義典

日向ぼこのっぺらぼうになりにけり
亀山祐美子
短日やわたくしといふ地図の皺
田村 杏美
冬日射す方へ座布団移しけり
景山 典子
曇天に日だまりといふ池がある
上村 良介
秋日和素敵な寒さを待っている
侑   海

柚子

日曜の空より柚子をもぎにけり
涼野 海音
鬼柚子に腹の底などさぐられし
柴田 清子
鬼柚子や出船入船嫁取船
野ア 憲子

句会メモ

今回は、初参加の景山典子さんと、八か月ぶりの参加の涼野海音さんを迎え、小春日和のサンポートホールで、終始笑いの絶えない楽しい句会になりました。

亀山祐美子さんが持って来て下さった鬼柚子を睨み果実?に、事前投句の選句、合評、袋回し句会と、速いテンポで進みました。それぞれの視点の違いが、思わぬ発見につながり、俳句は生ものであるという思いをさらに強くしました。

実際の句会で、新たな言葉との出逢いがあります。次回が、楽しみです。句会の間中、机の真ん中に鎮座していた鬼柚子君は、俳句総合誌「俳句界」の第4回北斗賞の受賞のお祝いに、涼野海音さんに貰われて行きました。

今回は、試験的に、袋回しのお題を先着5題にしてみました。佳句もたくさんありましたが、バラエティーを考え・・次回から、また、お一人一題でまいりたいと思います。

野ア憲子記
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