香川句会報 第35回(2013.12.21)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

鎌を研ぐざらつく指に枯野見え稲葉 千尋
故郷や里女の子冬の山岳KIYOAKI FILM
龍の髭寒きところに寄りあって高木しげ子
落ちてなほ笑ひ転げる柘榴かな尾崎 憲正
蝶道をいきつもどりつ凍てにけり若森 京子
梟は夜空をゆるやかに使う月野ぽぽな
山よりも谷よりも深し火吹竹古澤 真翠
冬耕の翁弥生の香り人小山やす子
もみずるはガラスの目玉廃校舎野田 信章
まつしろいものを通つて寒へゆく上村 良介
立膝の起伏雪虫とぶかしら小西 瞬夏
しゃがんだら空が大きいレノンの忌河野 志保
考へることにも飽きて落葉掃く景山 典子
耳聡し冬とう同心円に座し市原 光子
若狭みぞれときに読経またみぞれ矢野千代子
帰り花老うは最高自由律侑   海
和紙たたむふっとオリオンこわれもの久保 智恵
譜面台倒し北風ファンファーレ野澤 隆夫
冬うららキリンを買いに旅に出る桂  凛火
寒卵それはジュラ紀の昼の月三好つや子
渋柿にゆっくり熟れよと諭す母漆原 義典
冬銀河やがて折り畳まれる傷田村 杏美
冬すみれ尼僧ふわりと跨ぎたる増田 天志
クリスマスだからと言っただけのこと柴田 清子
冬林檎運命線よりころがりぬ亀山祐美子
悴めば幼き頃にもどる道高岡 晶美
霰あられ風のお祭りはじまるよ野ア 憲子

句会の窓‥通信欄より

桂 凛火
特選句「風によく混ざるロシア語冬めく日」風によく混ざるのフレーズがすてきでした。問題句「冬淡し(淡淡)日本野山と描く富士力士」おもしろいんですがやはり長いのが問題かなと思いました。たくさん素敵な句があり迷いました。よいお年をお迎えください。
月野ぽぽな
特選句「月聡し冬とう同心円に座し」冬の透明度といったもの、それから人恋しさに似た気分を「月聡し」「同心円に座し」という独特な措辞によって伝えることに成功している。
河野志保
特選句「落ちてなほ笑い転げる柘榴かな」…一読して楽しい句だと思った。石榴を人間っぽく捉えたところが新鮮。それでは、慌しい時期ですが風邪などひかぬよう、どうぞご自愛下さい。
増田天志
特選句「立膝の起伏雪虫とぶかしら」畳で暮らす日本の風情を満喫。問題句「冬銀河やがて折り畳まれる傷」悠久と無常との対比に示される時の流れ。
亀山祐美子
今日の句会の作品ですが、問題句として「鍋焼うどん愚痴に貸す耳ありません」「 貫くは主権問ふこと去年今年」を頂きました。二句とも想いを述べただけで五感に訴えるものがありません。絵にならず余白がありません。故に想像の膨らましようがなく共感できません。悪しからず。まず最初に『俳句は一瞬を切り取った十五文字で現す絵だ』と教わりましたので、予選に頂き、気にはなりましたが…「蝶道をいきつもどりつ凍てにけり」「若狭みぞれときに読経またみぞれ」の(ゆきつもどりつ)(ときに・また)という時間の経過を感じる言葉にアレルギー反応を起こしてしまい取れませんでした。これを改善しなければ平成の現代俳句に置いて行かれるとしても、まぁしかたがないでしょう。持病ですから…。 「 まつしろいものを通つて寒へ行く」を特選で頂きました。雪景色とは限らない。霧か他のものかもしれないのですが、讃岐ではお目にかかれぬほどの銀世界なのだと思いたい。「寒へ行く」という意志の強さ、気持のよい不思議感漂う佳句。句会初体験の尾崎さんに加え、岡山から参加の高岡さんと益々盛会で喜ばし限りです。今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。どちら様もよいお年を!辛口のコメントになりましたが、「海程らしさ」になじめない自分に安心してもいます。
野澤隆夫
今回は81句からの選句。しゃがんだら空が大きいレノンの忌≠ヘ、すぐに気に入り、ビートルズレット イット ビー≠ニ口ずさみました。問題句に冬うららキリンを買いに旅に出る=Bキリンを買いに…?、カバでは駄目か?、駄目なのだろうと。帰りの電車で凍てつく夜もまだそこにゐるのかいカムパネルラよ≠焜tァンタスティックでいいなあと。 袋回しは九つの題。全部作るぞと頑張るも、紙≠ェできない。紙芝居≠フ言葉が浮かんで時間切れ。そうか手紙≠烽った。この雪まで手紙に入れてしまえれば=Bいい句が出来てる人もいるなぁーと感心する。今年もお世話になりました。いいお年を…。
上村良介
今月の誤読●「極月やドロンと消えてしまいたい」。師走である。みな忙しそうに行き交っている。なのにわたしは……。それに寒いし。人恋しさのつのる時期である。なのにわたしときたら……。そうだ、わたしにはドロンがいた。あの究極のイケメン、アラン・ドロンがいるじゃない。ここでキムタクではなく嵐でもなく、アラン・ドロンを思い浮かべるところに(失礼ながら)作者の年齢がうかがえる。もうこうなると妄想が止まらない。「ドロンと消えてしまいたい」。失楽園モードである。わたしはここで言いたい。「あたしじゃダメっすか?」。作者はわたしを一瞥し「フフン」とせせら笑うであろう。いいもん。わたしだって黒木瞳と消えてしまいたいんだよっ!
古澤真翠
特選句「冬銀河やがて折り畳まれる傷」折り畳まれるのは 心の傷なのでしょうか? 冬空を見上げながら ご自分の魂を磨いておられる作者の崇高な姿が浮かび 目頭が熱くなりました。「ただ母の話を聞いて冬ぬくし」「考へることにも飽きて落葉掃く」「帰り花老うは最高自由律」の三句は、非常に共感いたしました。「ふせられた詩集のすきま寒に入る」.は、ロマンを感じ どんな詩集かなぁと思いを馳せました。「鎌を研ぐざらつく指に枯野見え」は大自然を相手に作業をなさる姿に感銘を覚えました。
三好つや子
特選句「冬うららキリンを買いに旅に出る」冬空の透明感が、キリンとうまく響きあい、荒唐無稽さを感じさせない句に仕上がり、感動。「おしくらまんじゅう仏も混じりあたたかし」子どもの遊びの中に見え隠れする仏心・・・魅力的な句です。問題句「しゃがんだら空が大きいレノンの忌」世界平和を願ったジョン・レノンが銃弾に倒れた十二月八日は、真珠湾攻撃の日でもあります。時空を超えた二つの偶然を考えるとき、中七はまだ推敲の余地があるのでは。問題句にしましたが、もっとも心惹かれた句です。
KIYOAKI FILM
特選句「帰り花老うは最高自由律」賑やかな句が多い中で、この句の口調でほっとする所、大です。面白い句が一番好きですが、こういう、一茶風の句も一番好きです。「帰り花」の品のありそうなイメージ。「充実した日々」と言う風に聞こえます。老人の朗らかな気持ちが伝わってきます。問題句「冬空やアイソン・ラブジョイ初デート」配置が気にせず、五七五で言葉と人名と、「初デート」で締めくくる。読者を気にしない自由さが、とても、活き活きしていて、「冬空」に、「初デート」のクリスマス。追伸 選句用紙を見て、色んな漢字見て、僕は言葉が多く、知りたいと思います。広辞苑読書にチャレンジしたのは1999年一月(!)でしたが「お」で挫折、というより、諦めました(笑)。言葉を配置して組み合わせるのは辛いです。今は電子辞書ですが、先日、街で社会鍋をちらっと見ました。日日、日日、寒さ、ひとしおです。
漆原義典

「形ある孤独のようにオリオン座」「細長き自愛毛糸をざっくり編む」「冬うらら少女の肉の等高線」 の三句の鋭い感性に感動しました。ありがとうございました。

ところで句会とは関係ないことで恐縮ですが書道展のご案内をさせて頂きます。 日時は、一月二十四日(金)〜二十六日(日) 九時時三十分〜十七時まで、 場所は、 香川県文化会館(高松高校東側)です。 (主催 毎日新聞高松支局、毎日書道学会)この展覧会に私の前衛作品(命をイメージした作品)が展示されていますので、時間がございましたらご覧いただけれは幸いです。

小山やす子
特選句「山よりも谷よりも深し火吹竹」火をおこす時に昔は使いましたが、火吹竹の向こうに赤々と燃える槇や熾きが何とも美しかったのを覚えています。山よりも谷よりも深いと言う表現は素敵です。問題句「冬淡し(淡淡)日本野山と描く富士力士」意味が理解できないです。
景山典子
特選句「山門にやり過ごしたる時雨かな」・・「やり過ごしたる」が粋な感じ。情緒ある「時雨」の一句だと思います。問題句「キリンを買いに旅に出る」・・ 「キリンを買いに」が何を意味してるのかが疑問だが、なぜか惹かれる句。
柴田清子
特選句「梟は夜空をやわらかく使う」この作者の独特の梟の切り込み方が気に入りました。梟の一番大切な部分に触れている作者の神経の細やかさ。
小西瞬夏
特選句「冬うららキリンを買いに旅に出る」冬のある晴れた日に、旅に出るという。そこまでの景なら「そう」で終わってしまうところだが、その目的がシュールなのだ。キリンを買いにゆくというのだから。この「キリン」は「夢」であり、「希望」であり、また「美しいもの」であるのかもしれない。 問題句「凍てつく夜まだそこにゐるのかいカンパネルラよ」なんだかすっと心に届いたので○をつけてしまった。でも、この書き方でいいのか? この書き方だからいいのか?あまりにも述べているので、そこが整理できればもっと重層的な作品になるのではないだろうか。
侑  海
特選句「落ちてなほ笑い転げる柘榴かな」石榴の裂けて中の見える様子を言い当てて妙だから。明るい句が好きです。問題句「冬淡し(淡淡)日本野山と描く富士力士」字数と淡淡が何処へどう連なるのか良く解りませんでした。以上です。もうすぐお正月です。一年の経つのは早いものです。もう俳句を始めて二年が経ちました。また、来年も宜しくお願い致します・。
田村杏美
特選句「冬すみれ尼僧ふわりと跨ぎたる」冬すみれと尼僧の取り合わせが良いです。ふんわりとした空気感のある、心地よい句。取り逃がした句「着ぶくれてとてもやわらかい絶望」思わず共感してしまいました。定型ではないところにも、サイズオーバーな気持ちが溢れているような。
尾崎憲正

香川県さぬき市在住の尾崎憲正と申します(1948年生まれ65歳)。

今年の秋以来、思いもしない偶然が重なって、お二人の俳句の先輩にお会いすることができました。お二方とも精力的に俳句に取り組まれておられる素敵な方で、蕗でご活躍のK様と海程香川句会のお世話をされておられる野ア様です。この度、野ア様のお誘いで12月の海程香川の句会に参加させて頂きました。誠に有難うございました。

私にとっては、生まれて初めての句会でしたので、見るもの聞くものが衝撃的でした。

まず、集まっておられる方々の層の厚さと並々ならぬ熱気を感じ、ドアを開けると同時に圧倒されました。また、ことばの多彩さと使われ方の柔軟さにも驚かされました。マネキンに静脈があったり、自由律が定型だったり、はたまた、キリンを買いに旅に出る方が居られたり、という風に、皆さんの視点の自在さに感服するとともに、自身の世界の狭さを思い知らされた次第です。お蔭様で句会の楽しさを少し味わさせていただきました。自身の歩みでゆっくりと学んで行きたいと存じます。どうかよろしくお願い申し上げます。

高岡晶美
特選句「寒卵それはジュラ紀の昼の月」取り合わせが巧く、新鮮でした!比喩にしたことで季語の「寒卵」の存在が失われず、より大きなものとして感じられます。本当に素敵だと思いました!問題句「藁ぐろに亡父の姿が浮かび来る」ダイレクトに藁ぐろが亡父に見える、もしくは藁ぐろに亡父が眠っていたような跡がある、という表現だともっと好きだと思いました。「着ぶくれてとてもやわらかい絶望」着ぶくれは+ではないと思いますが、それに対して絶望はものすごい−。でも「とてもやわらかい」という形容詞に救いがあり、季語と絶望の両方がささやかな−になることができていると思います。
野田信章
特選句「冬銀河やがて折り畳まれる傷」天空を仰ぐ者の傷心にひりひりと触れてくるのも冬銀河なれば、またその悲しみを時空の彼方へと畳み込んでくれるのも冬銀河かと、極月のいま、身に入む一句である。問題句「細長き自愛毛糸をざっくり編む」・・「自愛」という内なる主題を書き切ろうとする姿勢に注目。但し、「細長き自愛」と読めてしまう点もある。リズムの上からも「細長き自愛の毛糸」とすれば一応通じるものがあるが、そうすれば「ざっくり編む」と「細長き」との関わり合いがわからなくなる。この二つは一句の中で同居させるよりも別居を望んでいるように思うが如何でしょうか。一句自立のために。
野ア憲子
特選句「しゃがんだら空が大きいレノンの忌」・・平和運動の活動家としても知られたジョンレノンの命日は、奇しくも太平洋戦争の開戦日。「しゃがんだら空が大きい」という発見が新鮮に響きます。思わずしゃがみこんで見上げた空の広さ大きさ、・・・揚句の、省略の効いた表現で、ハッとさせられます。レノンに因んだ句らしくリズム感も抜群ですね。問題句「冬の波切り開きゆく水押かな」・・「水押(ミオシ)」という言葉に惹かれ、「切り開きゆく」という言葉のスローモーション映像を観るような抑えた力強さに魅力を感じました。冬の波が良いですね。ただ、「冬波を・・」とした方が、より焦点が水押に集まってくるのでは、との思いから敢えて問題句としました。ボン・ボヤージュ!
(一部省略、原文通り)

袋回し句会

鍋仕立て月を待つのみ堀炬燵
侑   海

正月

お正月意味のわかりし孫ふたり
漆原 義典
お正月洗って取れぬ傷もあり
侑   海
お正月うれしき頃のなつかしさ
尾崎 憲正

善人顔くずし鴨鍋つつきをり
亀山祐美子
縄飛びの輪に入れない鴨の子よ
野ア 憲子

なまけもの冬の天使になれさうな
亀山祐美子
短日の天睨んだり睨まれたり
柴田 清子
東天に昴きらきら山眠る
野澤 隆夫

寒月が真白な紙を染めてをり
上村 良介
この雪まで手紙に入れてしまえれば
高岡 晶美
紙切りてテルテル坊主作りしよ
高木しげ子
からたちの小径に雪の紙芝居
野ア 憲子

冬ざれ

冬ざれの朝や昨日を見失ふ
田村 杏美
電線に今朝引っかかっていた冬ざれ
上村 良介

まつさらな雪だけ拾ふ遊びかな
高岡 晶美
灰色の街を包みし小雪かな
漆原 義典

一抱えほどの樹のそば髪冷ゆる俳句
柴田 清子
ばっさりと街路樹切られ冬来る
野澤 隆夫

句会メモ

今回は、初参加の方がお二人、さぬき市の尾崎憲正さんと岡山の高岡晶美さんです。尾崎さんは、今まで独学で俳句を勉強され今回が句会初参加、一方の高岡さんは、前々回からご参加の田村さんと同じく俳句甲子園出場経験のある若手作家。ますます多様性を帯びて、あっという間の四時間弱の句会でした。全句ご紹介できないのが残念です。来年が、ますます楽しみです。皆さま、佳きお年をお迎えください。

野ア憲子記
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