香川句会報 第36回(2014.1.18)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

  
白水仙目頭(まがしら)に貂荒れるかな久保 智恵
朝顔の断食・暗き父子笛KIYOAKI FILM
日の本のやすらかであれ松の内髙木しげ子
赤ちゃんの無呼吸症や水の餅侑   海
遠火事や霊長類の肱、踵三好つや子
我もやがて土になるのだ万有引力上村 良介
正念場赤いマフラー巻いて行く景山 典子
叱られるあの日の雪の白さほど柴田 清子
探梅の道それて海見えにけり涼野 海音
人日やよくしゃべりよくねむる母田村 杏美
この国は今も火の國どんど焼く亀山祐美子
冬木立二万余年の半減期尾崎 憲正
老ひ猫にコロコロテキを聖夜かな野澤 隆夫
弔いの夜は折鶴のごと雑魚寝若森 京子
着ぶくれて生活という昼の列河野 志保
角砂糖びっしりイブの夜の仔細小山やす子
寒昴呑み干しきれいな声を出す市原 光子
飛天地へ餅花の紅ゆれる隙矢野千代子
弦月や臆病な手のひらを結ぶ桂  凛火
冬ざれや電柱にあるキリンの声稲葉 千尋
くすりゆび冬蝶何羽きて汚す小西 瞬夏
いきものの内側濡れて冬銀河月野ぽぽな
初凪や瀬戸の島々歩き出す漆原 義典
切り株に帆船浮かべ冬の月増田 天志
獅子舞を見つめるひとの目に涙古澤 真翠
すみれたんぽぽ一月墓地に長居せり野田 信章
風花のマジック空を掴み取り藤田 乙女
寒満月大笑面でありにけり野﨑 憲子

句会の窓‥通信欄より

小山やす子

前回の掲載忘れです。ごめんなさい(野﨑憲子)「日詰まる走り根たどり物忘れ」歳末の物忘れを走りね辿って・・・とは実感です。上手いな・・・と思いました。

亀山祐美子

初句会盛会でとても楽しくておもしろかったです。特選句「冬木立二万余年の半減期」言わずと知れたプルトニウム(冥界の女王)の半減期二万四千年。半分の残りがさらに半分になるのにまた二万四千年。スリーマイル、チェルノブイリ、そしてフクシマ。「冬木立」で不安、苛立ち、反原発を余すところなく表現している。子や孫の世代の為にも代替エネルギーの開発が望まれる。今回問題句を三句も頂いた。三句とも好きなのだが、好きだからこそ気になる。大きなお世話な戯言とご放念下さい。「臘梅あかり吾の影をはぎゆけり」…「臘梅や」としたいところが(や・けり)の禁じ手となるので「あかり」を置いたのだろう。しかし、「あかり」と「影」の対比が気にいらないお節介焼きである。「弔いの夜は折鶴のごと雑魚寝」無季俳句である。空気感はよく身に染む。何度か口で転がすと散文としか思えなくなった。「すみれたんぽぽ一月墓地に長居せり」正月なのに墓地に来ている。盆正月にしか来られない。大切な方をしみじみと偲んでいる情景が浮かぶ。(すみれたんぽぽ)が光明を具現化し癒される。佳句だと思う。思うのだが、季語が三つも並ぶとやはり受け入れがたい。煩悶中である。袋回し、鑑賞時間が無くて残念でした。ではまた来月を楽しみに致しております。

月野ぽぽな

特選句「初凪や瀬戸の島々歩き出す」・・「歩き出す」という独特の措辞に、島に対する親しみと畏れが表れている。その土地への新春の挨拶句として輝いている。特選次点「寒月よ同じ私に目が覚める」人間という不思議に生かされている事実をつかみ取っている。辛うじて自己統一に納まりはするものの刻々様々な自分が犇めいているのだ。「寒月」が効いている。「春月」だったら同じ自分には目が覚めないかもしれない。

景山 典子

特選句「この国は今も火の國どんど焼く」火山列島日本。高々と燃え上がるどんど焼きの焔には、原始より続いてきた宇宙のエネルギーを感じます。力強くてインパクトのある句だと思いました。問題句「寒昴呑み干しきれいな声を出す」 寒昴を呑み干すとは?そのことと、きれいな声を出すこととの関係は?理屈では説明がつきませんが魅力を感じる句です。どこかで何かがつながっているのでしょうね。

稲葉 千尋

特選句「瀬戸内の島々を「歩き出す」と言う表現が気に入りました。

侑   海

特選句「風花のマジック空を掴み取り」すごく冷たくて、綺麗で、清冽な風景が素敵に心を掴みます。問題句「雪の香のなんという透明或る究極」これも、雪の姿を克明に表して素敵ですが、「なんという」は無くていいのではと、思いました。皆とても綺麗な俳句ですね。 

増田 天志

特選句「白水仙目頭に貂荒れるかな」目にも頭と尻があるのか。素直に感涙に咽ぶと仰しゃれば。問題句「寒月よ同じ私に目が覚める」霊魂は日毎に入れ替わっているのも知らないなんて。

古澤 真翠

特選句「日の本のやすらかであれ松の内」心から共感できる句です。このように美しく表現されたことに天晴れだと思います。「叱られるあの日の雪の白さほど」も、共感される句です。なんとも言えない言葉の連なりにはっとしました。他に、「白水仙目頭に貂荒れるかな」 「白水仙」の凛とした風情が浮かび、「目頭に貌荒れるかな」に作者の思いが私には伝わらず しばらく考え込みました。 自分の未熟さを思い知らされています。「三人で見上げる冬空露天風呂」屈託のないのびやかな光景が浮かび 私をその中に誘ってくださったような、思わずほっこりさせていただきました(笑)「初凪や瀬戸の島々歩き出す」まさに 瀬戸の島々が動きだすかのような光景が なんとも楽しい気分にさせてくださいました

尾崎 憲正

特選句「正念場赤いマフラー巻いてゆく」。年始です。何か只ならぬ決意を持って、普段は用いない赤いマフラーを巻いて出かけてゆくのでしょう。そのことは、“正念場”とあるので解ります。赤は幸せを呼ぶ色とか言われ、高揚した気持ちが伝わってきました。問題句「三人で見上げる冬空露天風呂」。私にとっては、“何だろうか”と意味での問題句です。湯船に浸かって冬空を見ている状況は眼に浮かべることができます。でも、三人と言い切ってあるのは、一人でも二人でも駄目なのでしょう。その理由を知りたくなりました。

三好つや子

特選句「着ぶくれて生活という昼の列」可もなく不可もない日常感がせつない。中七と下五の表現が巧みです。「大根の優先席に置かれあり」日向に干された大根への愛おしさ、感謝みたいなものを感じました。問題句「うすらいのひめいききたがるのが指」ひらがなと漢字の配列に魅力を感じましたが、薄氷の説明句になっているのでは・・・。

河野 志保

特選句「獅子舞を見つめるひとの目に涙」おめでたいはずの獅子舞に涙を浮かべているというのはどうしてだろう。作者だけが理由を知る、不釣合いな情景が印象的だった。作者の眼差しの温かさと不思議な魅力の句。

若森 京子

特選句「いきものの内側濡れて冬銀河」生きものの全ての内側が濡れるという表現に生きる哀しみや、内面的な表情が、充分込められている。それは冬銀河の結びのためかも知れません。問題句「白水仙目頭に貂荒れるかな」白水仙と貂の比喩が余りにも想像外ですが、何故か惹かれる一句です。

小西 瞬夏

特選句「うすらひのひめいききたがるのが指」問題句にもなりそうなぎりぎりのところに立っている句ではないか。指以外はひらがなでやわらかく書いているのだが、内容はなかなかに恐ろしい。「が」という強い助詞が前半の論理を混乱させ、この混乱をどうしたいいのかわからないまま読者はそこに放り出されるようなショッキングな感覚。体の中でも「指」という繊細な部分に作者の精神が密度濃く宿っている。問題句「遠火事や霊長類の肱、踵」・・「肱、踵」と並べるのに、読点がいるのだろうか。でも、こうやって書かれてみると、その間に視線が肱から踵に動くようにも思える。どちらもからだの支点となる部分、固くて大切な部分。そのことと「遠火事」の危険な感じ、何が起こるかわからない日常ということとの間に、なんだか細いつながりが見えてくるような気はするが、この距離感についてこれでいいのか、という思いもある。  

KIYOAKI FILM

特選句「老ひ猫にコロコロテキを聖夜かな」老猫にという発想の仕方、読んでいて、気持ちが感じて。老ひ猫の考えることなど、分かっているよと言いたげな、元気さに、胃痛が、すっとする、句の感じ方。問題句「雪の香のなんといふ透明或る究極」問題句と云うよりも、好きという句。笑ってしまいそうになった。漢字で一杯で、面白い。「雪の香の」が笑いを抑えて雪の香の道、大吹雪の中の、男か女かの景色。

桂  凛火

特選句「すみれたんぽぽ一月墓地に長居せり」1月は阪神淡路大震災の月です。わたしも墓地に長居しましたので共感しました。問題句「朝顔の断食・暗き父子笛」・・「・」の意味が読み切れませんでしたが、気になる句でした。

野澤 隆夫

会の後も投稿句を読み返す。〝箸二本渡し逃亡雪原へ〟そしてその後〝シベリア句の色紙の男冬に逝く〟かと。ドラマチックにいろいろ想像し、面白いです。 今回の袋回しはお題十句で時間内には5句作句。「屠蘇、鏡、どんど、鍬始、お茶」は作れず、我ながら不本意なる取り組み。勉強不足を痛感。次回は頑張るぞ…。

藤田 乙女

俳句を始めたばかりの私は、選句にも一苦労、一句一句の意味や思いを考えることもまだできずにいます。励まし上手な野崎さんに支えられ、少しずつ、進歩できればと思います。

涼野 海音

特選句「人日やよくしゃべりよくねむる母」「よく」の反復がとても巧い。作者の気持ちの弾みを伝えている。問題句「吾もやがて土になるのだ万有引力」「万有引力」という言葉が、果たして季語の代わりになるか・・・。「万有引力」と上五、中七のフレーズとの関係が読み取りにくい。

野田 信章

特選句「湯冷めして見ぬちの星座あきらかに」読み返すたびに見えてくる一句の撓りようが、魅力的である。晩秋にやや近い頃から初冬にかけての季感を伴って、そこにきらめき出す星座に,女身の持つ或る種の生理的実感の深さ豊かさをも覚える。問題句とした「寒昴呑み干しきれいな声を出す」一読、この句を特選にしようと思ったのは「呑み干しきれない声を出す」と誤読したためであった。原句の方がきれいな句姿ではあるが単調であり誤読の方が生き身の反応としては屈折感も加わり「寒昴」の切字としての効果が大であり、美しい句姿を現前させると思うが如何でしょうか。

小山やす子

特選句「切り株に帆船浮かべ冬の月」を特選で頂きましたが「くすりゆび冬蝶何羽きて汚す」も不思議な感覚で、美しいくすり指が立ったスクリーンに蝶の乱舞する画面が象徴的で怪しく焼き付きました。「赤ちゃんの無呼吸症や水の餅」の、赤ちゃんの無呼吸症とは何とも痛ましい感じがするのですが水の餅と相まって何かしら其処にポエムを感じるのは不謹慎でしょうか。

上村 良介

今月の誤読●「寒満月わたしの中に誰か居る」。この句の意味するところは明解である。なにしろ「わたしの中に誰か居る」のだから、二重人格を詠んだものであることは間違いない。ではその「誰か」とは誰か? ま、これも上句の「満月」で解ける。「おら、見ただよ。やつの鼻がググッと突き出してよ、ほんでもって口んとこからでっけえ牙が生えて。からだじゅうから毛がモジャモジャと……」(目撃者談)。さよう、あの満月の夜に変身するというオオカミ男である。となると問題は「寒」である。いろいろ考えました。長考の末、やっと解けました。これを「カン」と読まずに「サム」と読めばいいのだと。目撃者の「おら」が見たのは「サム」という青年だったのだ。赤ずきんちゃん、サムには気をつけな。とくに満月の夜にはね。

野﨑 憲子

特選句「白水仙目頭に貂荒れるかな」所謂、三段切れの作品です。けれども、「白水仙」と「目頭に貂」という、奇想天外な取り合わせを、座五の「荒れるかな」がガッチリと結びつけています。水仙の香と貂の円らな瞳が匂い立ち、響き合っているように感じます。発語感と映像性の素晴らしさに圧倒されました。問題句「三行目あたり真冬が先行す」こう、真正面から書かれると、思わず納得してしまいます。上手い句です。ただ、「真冬」がいいのですが、ふっと動くようにも・・。

(原文通り)

袋回し句会

鍬始

鍬始大地の痒きところより
  亀山祐美子
老ひし母山道をゆく鍬始
  上村 良介 
天上の楽を奏づる鍬始
  野﨑 憲子

地球儀

地球儀の転がってゐる寝正月
  涼野 海音
凍てつきし地球儀のごと眠りをり
  田村 杏美

屠蘇

底なしの屠蘇で始まる祝ひかな
  髙木しげ子

お茶

ほっこりと番茶のかをり春隣
  景山 典子
お茶さめてしまって水仙が真っ青
  柴田 清子

探梅

探梅やなじみの店の閉店す
  田村 杏美
探梅や番(つがい)の鴲(しめ)の諍(いさか)へる
  野澤 隆夫

女正月

女正月アマゾネスらのふてぶてし
  上村 良介
赤ワインたんと上がれや女正月
  尾崎 憲正

初句会

初句会未だに会えぬ人恋し
  侑   海

鳩サブレー

鳩サブレーかじって春がすぐそこに
  柴田 清子
武士のわびさび伝えし鳩サブレー
  漆原 義典 
小春日や孫より届く鳩サブレー
  野澤 隆夫

氷面鏡それは牡丹のひとしづく
  野﨑 憲子
底冷えの合わせ鏡をのぞきこむ
  亀山祐美子

左義長

左義長の火の伸び縮み伸び縮み
  涼野 海音 
高ぶれる火を鎮めつつどんど焼く
  景山 典子

句会メモ

平成26年の初句会は、寒晴れのサンポートホール高松第67会議室で行われました。見学のお一人を合わせて13人の仲間が、事前投句の合評そして袋回し句会に参加しました。

袋回しのお題の中の<鳩サブレー>は、野澤隆夫さんご持参の、ご存知鎌倉名物。感謝です。さっそくお題となり、面白い作品が続出しました。全句掲載できないのが残念です。

次回は、2月15日です。詳細は、「句会案内」をご覧ください。ご参加、楽しみに致しております。

野﨑憲子記
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