香川句会報 第38回(2014.03.15)&塩江・大窪寺・伊吹島吟行(2014.03.08〜2014.03.10)

通信句会参加者の一句

人間(じんかん)に戻る夕べや涅槃西風 武田 伸一
恵みありたねを撒いたる人となり 侑   海
坂町の猫暗躍す紫木蓮 桂 凛火
この国はチューリップ一本の明るさ 小山やす子
三・一一ただならぬ世を生きてをり 景山 典子
島人の植えし水仙天に届く 漆原 義典
水取りの火と人ふぶく闇の中 三好つや子
満願や浅くまきゆく貝割菜 矢野千代子
啓蟄や小石が転がるやうに雨 田村 杏美
佐助さんかてゆうたはる梅の花 増田 天志
なごやかに和して同ぜず雛祭り 古澤 真翠
耳烏賊の耳をかじるや島おぼろ 亀山祐美子
霊場は繭のあかるさ東風荒れる 若森 京子
土筆たんぽぽ読み人知らずのように生づ 市原 光子
土塊(つちくれ)のごと挽肉(ひきにく)をねる啓蟄 久保 智恵
たねを忌や屋島がそこにおぼろなり 野田 信章
オンポトポト汚点のように落椿 黍野 恵
春の航箔舞い上がりては落ちる 榎本 祐子
波切不動寒椿一灯まゐらせそろ 上村 良介
謝肉祭やわらかき舌ほしいまま 小西 瞬夏
誕生日春の胞子にくるまって 加藤 知子
白梅がざわっと近づく夜の窓 河野 志保
大欠伸してる警官残る雪 野澤 隆夫
春一番まえゆく人の旅衣 木しげ子
島娘の大の字休眠涅槃西風(亀山さん) 樽谷 寛子
臘梅や築城残石数個あり 海蔵由喜子
フクシマや時の流れに遅速あり 大西 政司
しづけさの遠き太鼓を打つ小鬼 KIYOAKI FILM
辛夷咲く二人っきりの役場支所 稲葉 千尋
春月を海に灯して祈ります 月野ぽぽな
春の海伊吹いりこの一人旅 田中 孝
春一番瞬(まばた)きの間の平和かな 藤田 乙女
涅槃西風雑魚寝となりし島の宿 久保カズ子
根上がり松疲れた頭に春の雨 疋田恵美子
やぶつばき同行二人そわかそわか 永田タヱ子
梅咲いて文鳥首を傾ける 鈴木 幸江
唇の色はあけぼの卒業す 尾崎 憲正
島人と考妣の話野水仙 高橋 晴子
初蝶の影は真魚なり燧灘 野ア 憲子

句会の窓

漆原 義典
特選句は「真昼とはこんなに冷たい菜の花黄」「春月を海に灯して祈ります」の二句とさせていただきます。問題句は特にありません。★塩江伊吹島の吟行での皆さまの句に感動しています。大変勉強になりました。ありがとうございました。
上村 良介

問題句「犠牲てふ宙吊りの肉春まひる」なんか、ダリっぽくて好きなんですけど。今月の誤読●「インターホン押せば寄居虫がぬうーと」。だから「寄居虫」ってなんだよ? 読み方さえわからん。キキョ虫か? キキョキキョと鳴く虫なのか? ?マークが多すぎますか? とりあえず「インターホン押せば」出てきたんだから、手はあるようだ。少なくともドアノブはまわしたようだし。触手っていう言葉もあるし。「ぬうーと」からはかなりの大きさを感じる。ふつうだと、虫はチョロチョロかザザザだもんね。おっ、ザといえばザムザだ。カフカの小説「変身」の主人公で虫になったグレゴール・ザムザ。彼はたしか等身大だった。そこになにか手がかりがある。直感したわたしは、この句を解読すべく本棚に走った。だがいくら探しても「変身」がない。読んだはずなのに。ええっ、てことは、もしかしてあの本、紙魚になってどこかに行ったとか。うーん、おそるべし、変身。

野澤 隆夫

沢山の吟行句、楽しく鑑賞いたしました。やはり選句も吟行句が楽しめました。特選句「四国路の春甲虫のライダー過ぐ」…小生も香川の春は、何故かバイクの走行に毎年感じます。昨日、栗林公園開園記念日のセミナーと探鳥に出かけ、皮ジャンのナナハン駆ける春一番≠作句。偶然の類句でした。問題句は「謝肉祭やわらかき舌ほしいまま」…キリスト復活祭前の肉食を許された3日間とか。何となくブラック・ユーモアで怖いです。

KIYOAKI FILM

特選句「恵みありたねを撒いたる人となり」選句稿は初めの方に記されているのが、心に残る。「たねを」はたねをさんのように思えて、特選にしました。 特選句「大欠伸してる警官残る雪」暇なる警官の胸の中にたくさんの悶…と、思っていましたが、「大欠伸」なので社会への風刺と思いました。人間を雪に喩えた。問題句「三・一一ただならぬ世を生きてをり」震災句ということで、問題句にしました。是は現実社会での、想いなのだろう。確かに三・一一から世の中、大きく変化しましたから。「生きてをり」が良かったです。

増田 天志

特選句「誕生日春の胞子にくるまって」月おぼろ馬齢重ねるばかりかな。「四国路の春甲虫(こうちゅう)のライダー過ぐ」仮面ライダーは私です。

侑   海

特選句「葛湯吹くこころちぎれるほどにふく」・・「こころちぎれる」と言うフレーズがとっても気に入りました。葛湯の熱さに比べて、自分の身体と心の冷たさをよく表していると思いました。特選句「春の海伊吹いりこの一人旅」がとっても可笑しくて、哀愁漂って、伊吹島の雰囲気ぴったりと思いました。★伊吹島大好き。久保カズ子お母さん大好き。問題句「土筆たんぽぽ読み人知らずのように生づ」というところもう少し整理できるのじゃないでしょうか?「読み人知らず」は数を数える人がいないということでしょうか?吟行の宿「魚虎旅館」の別館はとっても雰囲気あって、気が引き締まりました。旅館も風情があり、お風呂のお湯は気持ち良かったです。トロッと感がお肌に効いた気がします。「大窪寺」は内陣の薬師如来さまの御開帳で秘仏の薬師如来さまに会えたのと、その時に左手首に五色のブレスレットが皆お揃いが良かったです。

尾崎 憲正

皆様の句を拝見しまして、いつもながら大変勉強になります。自分では決して表現できないものがあって、心の中のモヤモヤ、もどかしさが解消いたしました。特選句です。「三・一一ただならぬ世を生きてをり」私たちは、今までの人類が経験したことがない時代に生きています。例えば、原発から生まれたプルトニウムは、たった1gで4千万人の人命を奪うことができると言われ、我が国はその物質を44トンも保有しています。この句の17字には、ただならぬ世を生きて行かざるを得ない不条理に対する怒りが込められています。問題句です。「啓蟄やわたしはノンレム睡眠中」ノンレム睡眠は深い眠りだそうですが、そのような状態にあって句を作っている(進行形)のが不自然に感じられ、言葉の響きにも未消化なものを感じました。

景山 典子

特選句「春月を海に灯して祈ります」この祈りは、私には3・11の大震災の犠牲者に捧げる祈りと感じられました。悲しみをもたらした海の上に灯る春月がやさしいです。問題句「正論をむしゃくしゃ喰う虫春の雷」・・「春雷」を「虫出しの雷」ともいうので、虫が使われているのかと思いますが、「正論を喰う虫」とは何を示しているのかが、今一つ分かりにくいです。でも、何か持っていそうな、とても気になる句です。

小山やす子

なかなか一人では行けそうにもない伊吹島吟行に参加させて頂いたお陰で・・・。出部屋という伝統習俗が有ったという産院跡。ホタルイカほどの小さな蛸に耳が付いたような耳烏賊。この二つに出会えた驚きは心に今も焼き付いています。お世話頂いた皆様に、ご一緒出来た皆様に心よりお礼申し上げます。

大西 政司

特選句は「初蝶の影は真魚なり燧灘」あいさつ句として過不足なし。

三好つや子

特選句「春月を海に灯して祈ります」東北大震災で亡くなった人々を悼む句。海に浮かぶ月が、まるでローソクのように感じられ、心惹かれました。「インターホン押せば寄居虫がぬぅーと」定職につかず家でゴロゴロしてるニート・・・。私の近所にも居て、回覧板を渡すときなど顔を合わします。この句にはカフカの「変身」ほど深刻ではなく、温かさもあり、好きです。問題句「気化はじむ言葉の皮膜二月尽」上五と中七がすごく面白い。二月尽よりもっと作者の気持ちを具現化する季語が欲しいと思いました。

小西 瞬夏

特選句「赤椿白椿人として歩く」言葉を絵画のように使っている。「人として歩く」は散文的であるが、「赤椿白椿」とならべて置くことで、色彩と情景があざやかに浮かぶ。要らない説明もそぎ落とし、作者の生き様が浮かびあがる。問題句「洗いたてのTシャツ両生類に一礼」・・「洗いたてのTシャツ」と「両性類」の取り合わせは妙な面白さがあるが、「一礼」に手がかりが弱く、やや世界に入りづらい。

古澤 真翠

特選句「春一番まえゆく人の旅衣」春風に裾を靡かせ歩く旅姿、左右には菜の花畑が風に揺れながら続いている光景がぱーっと目の前に浮かんできました。四国ならではの のどかな春景色に心弾む作品だと感じました。

月野ぽぽな

特選句「春の膝がくがく波切不動は波の上」まず「春の膝がくがく」が独特。体感を通して体のそして心の不安定さを伝え、「波切不動」との取り合わせによりで自然に対する畏れが見えてくる。深い句の心情と、力むことのない飄々とした韻律との差異が醸し出す俳諧味が絶妙。

市原 光子

特選句「霊場は繭のあかるさ東風荒れる」・・「繭のあかるさ」と「東風荒れる」の対比に「発心の道場」「修行の道場」を重ねました、四国の住人として。問題句「フクシマや時の流れに遅速あり」・・「フクシマ」を季語として受け入れるかどうか迷いましたが、世情として、もどかしさを感じます。

亀山祐美子

残念ながら特選句はありません。皆さん力が入り過ぎているような気がします。のんびりゆったりした句があれば飛び付いたと思います。★塩江、伊吹での豊かな時間をありがとうございました。また機会がありましたら呼んでくださいませ。

田中 孝

来年もぜひとはあつかましいお願いか、なかなか行けるところではないです、伊吹島など。比叡山句会にかわりと云うとなんですが、すばらしい香川吟行句会でした。

加藤 知子

3月よりお仲間に入れて頂けることになりました。フライング気味の、気持だけは若い加藤知子です。皆さまにビシビシ鍛えて頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。特選句「霊場は繭のあかるさ東風荒れる」明るさには色々なものがあろうが、純粋なものに癒されるような明るさを感じた。特選句「唇の色はあけぼの卒業す」なんといっても、あけぼのの使い方が新鮮。よくぞここに!入選句「海の照り極まって散らばって白蝶」絵画的で美しい。「信仰の島造花許さる冬の景」厳しい状況下での信心!?「土筆たんぽぽ詠み人知らずのように生づ」特に気にとめられもせず・・・「オンポトポト汚点のように落椿」オノマトペ、この場合少し違和感。平仮名書きではどうかな。「靴擦れや蝶見失う畜霊碑」景もよく見えユーモアがあり。「涅槃西風 吽の微笑は水のよう」君子の交わり・・・を想起「死に人とちと相談がある春の墓」(ありふれているとこがいいー。問題句「モンスター春には春の恋をして」モンスターと春、特別な響き合いがあるの?夏には夏の恋ではどう なの?

稲葉 千尋

特選句「島人と考妣の話野水仙」亡くなった父母のことを島人と話しているということだが中七の考妣でいただいた。野水仙が利いている。問題句「三・一一ただならぶ世を生きてをり」上五と中七が付きすぎのように思います。

榎本 祐子

島は不思議、陸から離れた空間は凝縮し拡散される。特選句「人間(じんかん)に戻る夕べや涅槃西風」何が戻るとが言われていないが涅槃西風が物語っていて季語が活かされている。特選句「鳥交る島てっぺんに巌かな」鳥交る季節を背景に巌で島の存在感が簡潔に表されている。問題句「花水風春ぞ来たりてなぞてさびしき」短歌的諷詠で肌触りは良いがその分俳句の特質より少し離れているように感じる。

海蔵由喜子

特選句「なごやかに和して同ぜず雛祭りな」上五中七は吟行した仲間のこととも思いました。特選句「春雷や右往左往で作句する」は、私も毎回右往左往して作句し、心情がよく解りました。問題句「犠牲てふ宙吊りの肉春まひる」は、よく理解できない句ですが、選句力量たらずではないかと思います。★今回の吟行の旅に初めて参加させて頂き帰郷してからもいろいろ想い出しています。又「人参」と読まれてしまった句や出句も推敲したり、新たに作句したりしました。宮崎三人組は会ったり、メールなどで、「楽しかったね」「参加してよかったね」と、言ったり笑ったりしています。久しぶりのマリンライナーに乗り瀬戸内海を見て春の景色を堪能しました。四国村のかずら橋、結願寺、伊吹島など観光や吟行出来た事は生涯忘れぬ思い出になりました。香川句会の皆様大変お世話になり有難うございました。香川句会のますますのご発展を祈願しております。

桂 凛火

特選句「死に人にちと相談がある春の墓」・・「ちと相談がある」というフレーーズに心惹かれました。本気なんだけどユーモラス。くすっと笑える感じが好きです。問題句「水取りの火と人ふぶく闇の中」・・「人ふぶく」が読み切れませんが、魅力的です。

高橋 晴子

特選句「霊場は繭のあかるさ東風荒れる」繭のあかるさ≠ニいう捉え方にあまり抹香くさくない祈りの思いが感じられる。特選句「初蝶の影は真魚なり燧灘」影は真魚なり£アの影に魚を感じさせられる発想も面白いが、私には弘法大師幼名の真魚≠ェ響いて面白いと思った。燧灘≠ェ生きる。問題句「正論をむしゃくしゃ喰う虫春の雷」虫をもってこないで真っ正面から渡りあった方が生きた句になるのではないかと思いますが、必要以上の字余りが成功しているかどうかを感じながら読みました。★伊吹島吟行、参加させて頂きありがとうございました。古い寒雷人のお名前を伺い懐しく思いました。武田さんのきりっとした進行、野田さんの厳しい句評が特に印象に残りました。旅がしたくなったら日帰りで伊吹島へ渡っていましたが、今度は皆様との思い出も加えての一人旅です。お世話になりました。

樽谷 寛子

特選句「人間(じんかん)に戻る夕べや涅槃西風」昼間は様々の顔をもった人間も夕べは我に戻れるひととき。風は浄土から現世への幸せの訪れ。季語が効いている。特選句「初蝶の影は真魚なり燧灘」できすぎた句でも何故かひかれました。★楽しかった三日間、帰りたくなくなっていました。大荷物で出かけるので夫は当分帰って来ないんだなと笑っていました。またチャンスを作って下さい、感謝。

永田タヱ子

特選句「島娘の大の字休眠涅槃西風」島へ帰られ母の愛につつまれほっとされた心の温かい俳諧に同感。特選句「臘梅や築城残石数個あり」築城の先人達の苦労の置き忘れなのか、古代文化の名残の妙を感じました。

鈴木 幸江

特選句「オンポトポト汚点のように落椿」新しく擬態語を創るのはとても難しい。「オンポトポト」は「汚点」のことばにぴったり。そのお手柄でいただいた。「落椿」にはそういう部分もある。

河野 志保

特選句「春月を海に灯して祈ります」一読して、春の月と瀬戸内海の海の風景を思った。おだやかな波に光が映って安らぐような感じ。自然と手を合わせた祈りの場面を想像した。春の月には四国の海がとても合う気がした。

田村 杏美

特選句「一万歩言ふはたやすし山洗ふ」・・「一万歩言ふはたやすし」が、おもしろいと思いました。こんぴらさんを目の前にしたときの、これをこれから登るのか、と思って、思わず笑ってしまうような。そういうこんぴらさんも私を笑っているのでしょう。

黍野 恵

特選句「初蝶の影は真魚なり燧灘」初蝶に真魚様を持って来るとは燧灘で完璧すぎ。★この様な機会がなければ一生御縁のない所へ吟行出来ました。四国の遍路文化というのか、おもてなしが、さりげなく生活となっているのに感心しきりでした。充実した三日間を有難うございました。

久保カズ子

特選句「島娘の大の字休眠涅槃西」人を良く観察して作句する方だと思う。特選句「初蝶の影は真魚なり燧灘」初蝶の季語が良かったと思います。問題句「草青むたび思ひ出すかな」字たらず?★ 三月九日遠い小島へ皆様有難うございました。野ア様のしわがれ声が良くなり元気なお姿で安心しました。当日の風も大変心配しましたが、風の吹き出しが三時間程おくれ、皆様が息吹へ着いてから吹出したので安堵しました。夜通し吹き荒れた風も夜明けと共に凪、清清しい春の朝をむかえられた事何よりでした。午後観音寺へ渡って四国では珍しい雪・霰にも出合った様子本当によかったと思います。

野田 信章

特選句「島娘の大の字休眠涅槃西風」は下句を「涅槃西風」と読んで選句。「島娘」の屈託のないその姿態に「涅槃西風」を配合することで、春の息吹きの意を込めた作者の「伊吹島」に寄せる気息も伝わってくる。なお、付記するなら(亀山さん)よりも地名の方が句の読みに役立つ。 全体的な選句の中で他にも四国路の吟行句を選び得たのは、そこに現場を踏まえての素朴な句柄の中に鮮度ありと共感するものがあったからである。★この旅の反省は、どうも集中力不足で,己が心をせめずして物の実(まこと)をしることを果さずとの念が残ったことである。何れにしても、日常感覚の錆落としのためには旅や吟行に出ることは大切なことだと痛感している次第である。芭蕉先生の旅の根源についても今一度思索を深めたい。

若森 京子

特選句「春の膝がくがく波切不動は波の上」この度の旅の実感もありますが、大地を歩く自分の肉体と海上に浮く波切不動の対比が面白く惹かれた。★随分前から憲子さんが一生懸命計画して下さった香川句会四周年の吟行会に参加、初見の方もおられ春寒を肌に、晴天に恵まれ楽しい旅でした。生みの親、たねを氏もきっと香川支部の成長を喜び憲子さんに感謝していると思います。親しくしていた三田句会の三人も参加、翌日、たねを氏宅にお参りし、ほっと心の整理が出来た気持ちです。奥様も大変喜んでおられました。塩江の魚虎旅館では、侑海さんの地唄舞を堪能して郷土料理に舌鼓を打ちました。金子先生の「讃岐塩江昼の螢をいただきぬ」の額の掛かった部屋で遅く迄句会をしました。翌日の大窪寺は寒く「霊場は繭のあかるさ東風荒れる」の拙句が出来ました。一泊で帰りましたが、忘れられない讃岐の旅です。

武田 伸一

特選句「啓蟄や小石が転がるやうに雨」三月上旬、暖かくなってきて、冬眠していた虫たちが穴を出る啓蟄の頃。外は、「小石が転がるやう」な強い雨が降っている。暦どおりにはいかない気候。小さな生きもの虫たちを襲う戸惑いと試練。特選句「初蝶の影は真魚なり燧灘」初蝶のあえかなる影を、空海の幼名「真魚」だと観じている。「燧灘」は、空海の育った讃岐に即きすぎのようでもあるが、音韻の重厚さからしても、動かない。「坂道の猫暗躍す紫木蓮」・・「「紫木蓮」を上句にしたい。問題句「佐助さんかてゆうたはる梅の花」佐助は「春琴抄」の主人公と思うが、彼が何を言っているのか、肝心のことが読み手には伝わらない。次に表記。関西風に統一するなら、「佐助はんかていうたはる」ではないだろうか?★四国八十八ヶ所の結願寺大窪寺、瀬戸内海の孤島伊吹島、それぞれの特徴を満喫。見事な設定の妙に感心。感謝感謝。

野ア 憲子

特選句「蜆蝶こぼれ修羅しゅら瀬戸泊り」高橋たねを氏の香川句会最後の作品に「一文字蝶(いちもんじせせり)にぎりしめたい夜泣石」があります。揚句を一読して、この「一文字蝶」の句が頭に浮かびました。たねを氏も、きっとこの吟行の旅に来ていると、作者も実感したのだと思いました。リズミカルにまとまっているのも見事です。問題句「草青むたび思ひ出すかな」とても好きな句です。こういう破調の省略された句に何かパワーを感じます。揚句は、ほんの少し付句のようでもあり、あえて問題句にしました。★平成二十三年二月に、高橋たねを氏が急逝されてから三年、暗中模索の中、「海程」香川句会のお世話をさせていただきました。その中で、諸先輩から、「たねを氏のご霊前へ、一度お参りをしたい」という声が多く寄せられてまいりました。一年ほど前に、この三月の句会場が取れず、どうしようかとあれこれ考えていた所へ、たねを氏夫人富子様より、「海程の方々とお会いしたい」と言うお話がありました。香川句会発足当初から、たねを氏の念願だった武田伸一編集長の吟行へのご参加も叶うことになり、「時は来たれり」と、今回の旅を計画いたしました。当初は、一泊の予定でしたが、昨夏訪問しました伊吹島の風情が忘れられず、二泊の旅にさせていただきました。お忙しい中、ご参加くださった皆さまありがとうございます。 「海程」香川の素晴しい仲間たち、そして、塩江の老舗「魚虎旅館」をご紹介くださった柴田清子様、とっておきの伊吹島をご案内くださった亀山祐美子様、ご母堂の久保カズ子様、ご病身の中、一夜庵をご案内くださった高橋晴子様に、心からお礼を申し上げます。

(一部省略、原文通り)

塩江・大窪寺・伊吹島吟行句会作品抄(2014年3月8日〜10日)

塩江吟行

三月や島から島へ讃岐まで
田中 孝
豊受山(おといこさん)大きな口開け春を待つ
大西 政司
青い麦指から落とす昼の月
久保 智恵
接待の蜜柑を二つ花添えて
大西 政司
古雛の味を極める日暮亭
侑   海  
紫雲山梅林橋や鴨の陣
永田タヱ子
塩江の沈まぬ夕日螢の碑
野田 信章
梅咲いて梅の木にある塩気かな
田中貴美子
大師食めるや早春のおむすび山
樽谷 寛子
山頭火も行基も湯殿の夢枕
小山やす子  
春寒や湯屋の人形に迎えらる
海蔵由喜子
天女魚食べ胎児のかたちの眠りかな
若森 京子
たねをさん阿讃山系芽吹きまだ
矢野千代子

大窪寺吟行

冴えかへる柞(ははそ)の森に耳ふたつ
亀山祐美子
お遍路に旭ものすごい色気やな
久保 智恵
ここが打ちどめの寺 蒟蒻玉
疋田 恵美子
大師に祈る今日でおふくろはちじゅうろく
漆原 義典
秘仏朧身に蠢めける百八種
黍野 恵  
まなざしはときに慟哭牡丹の芽
野ア 憲子
大草履に結いのみくじや芽吹きおり
海蔵由喜子
陽炎や金剛心は確かなり
侑   海
納め杖原爆の火の奥にかな
野ア 憲子
どこかぬかるみ結願寺のやまつばき
矢野千代子  
不意に鳥翔ち千年の藪椿
田中貴美子
祈るかたち秘仏のくらさ鳥交る
若森 京子
肌寒や不動明王「田打男」の句
永田タヱ子
結願の寺の朝東風すさまじや
武田 伸一

伊吹島吟行

水際のどこかが痛し春にはぐれ
榎本 祐子
白鯨が遠く沖ゆく海市かな
田中 孝
春夕べ潮の伊吹きの島に着く
野田 信章
過疎となる島へ集いし黄水仙
久保カズ子
臘梅や追へども先達見失い
疋田恵美子  
春の空大きな声の忘れもの
小山やす子
鬼になる境の一歩島おぼろ
亀山祐美子
海暮れて濤の上に濤涅槃西風
高橋 晴子
ぷかぷかと小島春の日のダンスかな
樽谷 寛子
初蝶を追うもかりそめ旅にあり
榎本 祐子  
タトゥーあり船乗りの腕冴え返る
上村 良介
涅槃西風闇にかたまり漁師の家
武田 伸一
いぬふぐり鳶の大きな円の内
黍野 恵
廃工場より這い出る蟹一点の緋
上村 良介
燧灘絣模様の弥生かな
久保カズ子

句会メモ

「句会の窓」にも書かせていただきましたが、今回は、サンポートホール高松の句会場が取れず、第二週の<塩江・大窪寺・伊吹島吟行>と通信句会の二部構成にいたしました。塩江の「魚虎旅館」の女将さんには、句会の為に格調のある立派な別館を貸切で使わせていただき、お宿の方々の美しい笑顔とおもてなしと共に参加者一同、大満足で塩江を後にいたしました。お宿の玄関の等身大のお人形も素敵でした。心からお礼を申し上げます。 大窪寺と燧灘に浮かぶ伊吹島、距離は有りましたが、どちらも、春の讃岐を存分に語ってくれたと思っています。この吟行の旅に、遠路ご参加の方々そしてご尽力くださった方々に心よりお礼を申し上げます。四月の句会場は、サンポートホール高松第67会議室です。詳細は「句会案内」に、奮ってご参加ください。

野ア憲子記
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