香川句会報　第３９回(2014.04.19)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

対といふ危うき形さくらんぼ	小西　瞬夏
喪を灯すようです水芭蕉ひらく	月野ぽぽな
折り返す人生洒脱花筏	侑　 　　海
友らしきパン屋のレジに春の夕	野澤　隆夫
重たくておぼろ月とキリンの首	久保　智恵
青楓雨の裸婦像面はゆし	桂 　凛火
いもうとが桜吹雪になつてゐる	竹本 　仰
花の昼本音ぽつりと発泡酒	三好つや子
菜の花の海の遠浅さ握り食む	市原　光子
あめつちの分かれしままに花吹雪	増田　天志
花菜畑クジラのような雲に臍	田村　杏美
二円切手百枚買ひぬ啄木忌	高橋　晴子
初つばめ水平線から飛んでくる	��木しげ子
春の傘忘れ哲学入門書	加藤　知子
春遍路メールしながら同行二人	尾崎　憲正
さくら散るあっけらかんとして無罪	上村　良介
ランドセルの列右に左に風光る	藤田　乙女
目力の強いあなたと連翹と	柴田　清子
木仏の手に青筋や紅枝垂れ	古澤　真翠
山懐に便器つったつ糸遊	矢野千代子
春の里ふっと薄緑の息	漆原　義典
耳かゆし柳は水をなでにゆく	亀山祐美子
雨がいて尿の極みぞ動物園	ＫＩＹＯＡＫＩ　ＦＩＬＭ
小指ほどのすみれ草真言や	樽谷　寛子
目白は樹に言葉は沼にこもりおり	稲葉　千尋
紙風船大きく裂けてもの申す	谷 　孝江
きぶし群からだは縮むばかりです	若森　京子
とびつきり大きな返事入学す	景山　典子
阿修羅ごと樹齢三百年の花	丸亀葉七子
かたつむりバッハは君に似合うかも	小山やす子
耕せり「男は雑魚」と耕せり	野田　信章
紅の羽根舞ひはじむ朧かな	野�ｱ　憲子

句会の窓

月野ぽぽな

特選句は「小指ほどのすみれ草真言や」すみれの佇まいを「小指ほど」と体に引きつけてとらえ、更にそれに仏様の言葉である「真言」とを出会わせた。此岸彼岸は生き物の精神世界でつながってるという深く豊かな世界観が仄見える。破調と最後の切れ字が、句の内容を既成の概念へ帰結させてしまうことから逃れ、その初な感覚のまま伝えるのに成功している。

野澤　隆夫

４月の句会、後半だけの参加でしたが、和気藹々と楽しかったです。何が出てくるかわからないお題を四苦八苦する喜び？！最高です。特選句は、��かたつむりバッハは君に似合うかも�≠�採りました先日、『名曲の履歴書』（三枝成彰）に、バッハは「妥協を許さぬ頑固者」と書かれてあったのを思い出しました。かたつむりの性格？と君の対比が面白いです。問題句は��重たくておぼろ月とキリンの首�≠�。おぼろ月とキリンの首を重いという作者の感性が面白いです。

ＫＩＹＯＡＫＩ　ＦＩＬＭ

特選句「小保ちゃんや花と消えにし割烹着」一読、面白いです。時事句ですね？？川柳じゃない、ここがスゴイ。花と消えにし割烹着」が非常に面白いです。特に、「花と消えにし」が好いいなと思います。問題句「いもうとが桜吹雪になつてゐる」これは特選句になりますが、問題句にしました。「いもうとが」の「いもうと」の持つ、近代文学（汗）猫っぽいイメージが、拡がるような、「いもうと」の心象句・・・萩原朔太郎など（この人位しか知らないですが）女性の、体が見えて来る。と、思います。

景山　典子

特選句「そめいよしのあの世この世の透けてくる」はなやかな桜には同時に死を連想させるものがあります。桜の周りに生者、死者共に集まっているのを感じている作者なのかもしれません。問題句「二円切手百枚買ひぬ啄木忌」この四月から二円切手の出番が増えました。さっそく取り入れて面白い句だと思うのですが、「啄木忌」との関係が即いているようであり、いないようでもあり、ちょっと考えてしまいました。

侑　　　海

特選句「君確かめるため磯巾着に手」動けない磯巾着の手か葉か分からないようなもので君を確かめるのは、ちょっとぞくっとして、エロチックで江戸川乱歩の世界ですね。取り合わせが意外性あって面白かったです。問題句「之こに祖母の座あり牡丹餅丸くなる」・・「之こに」がよく解りませんでしたが、祖母の背、円座、牡丹餅と丸いものを上手く取り合わせていると思います。昔懐かしく、ほんわかとする俳句だと思いました。毎回楽しい俳句を鑑賞させて頂き有難うございます。→先の問題句の原句は「之こに」でしたが、私も疑問に思い作者の稲葉千尋さんに確認しました。その時は「之こに」でという事でした。選句の段階で「句会報には＜ここに＞でお願いします」とご本人から申し出がありました。

増田　天志

特選句「喪を灯すようです水芭蕉ひらく」美学ですよね、この世界。「遊蝶花束ねもとより医者嫌い」職人芸的な句作りに敬服。問題句『耕せり「男は雑魚」と耕せり』凄まじい怨み節です。　

漆原　義典

特選句「対という危うき形さくらんぼ」さくらんぼのかわいらしさを「対という危うき形」と表現している感性に感動しました。問題句「海鼠壁火種火柱紫荊」すべて漢字としていることで問題句とさせていただきましたが、力強さが感じられました。

上村　良介

今月の誤読●「そめいよしのあの世この世の透けてくる」。あたし、実際にやってみました。染井吉野の真下に立ってその花をじいいいいいっと小一時間ほど見つめてみましたが、うーん、いっこうに透けてみえない。あかん。まあもともと霊感などないからなあ、と帰りかけて、おお！　と気づきました。なぜ作者は「そめいよしの」とひらがなで書いたのか。その謎が解けました。これはアナグラムなのだ。「そめいよしの」の文字を入れ替えると、なんと「よめいそのし（余命その死）」となるじゃないか。なるほど命の瀬戸際に立てば「あの世この世の透けてくる」が理解できる。どうだね、ワトスンくん。ふふ、このホームズにかかればこんなもんだよ。さ、ベーカー街のオフィスに帰ろうじゃないか。

若森　京子

特選句「友来たる春哲学はゆりかご」は「友来たる春」と霽れの断面に下五に又「ゆりかご」と哲学を甘く理解している。しかし、特選句「春の傘忘れ哲学入門書」は、「春の傘忘れ」と。どちらかと云えば褻の意識に対して哲学入門書としているので私は「友来たる」の句よりもこちらの句の方を佳とした。二句とも同じ作者かも知れないが、同じ春の人間の心理状態を切り取り、「哲学」を日常にうまく融合させている。

亀山祐美子

特選句「きぶし群からだは縮むばかりです」花木五倍子のかんざしの房のような花と、ある年代から縮んでゆく体の実感への驚きはじもが伝わる。問題句「亀鳴くやでんでん虫のかなしみに」季語の重軽がないのでどちらが言いたいのかが分からない。感情の形容詞は俳句ではＮＧだし、でんでん虫のかなしみに同感できない。不勉強のせいか読み解けない句が多くて困りました。

三好つや子

特選句「春の雨人体ほどけ羽音かな」さまざまな色と香りを含んだ春らしい雨模様が幻想的に描かれ、心惹かれた句。「二円切手百枚買ひぬ啄木忌」話題性あり、ユーモアありの句。二円切手の図柄の、もじもじした兎の感じまで伝わってきそう。問題句「対といふ危うき形さくらんぼ」私にとって特選句に近く、中七と下五に共感。ただし、上五に物足りなさを感じました。

加藤　知子

特選句「菜の花の海の遠浅さ握り食む」菜の花も盛りを過ぎてきた光景かと。「握り食む」に諧謔味あり。問題句「ケエーンケエーン妻を呼ぶのか雉鳴く」付き過ぎではないのかなと。

小西　瞬夏

特選句「いもうとが桜吹雪になってゐる」あっさりとした言い回しが逆に内面にしみこんでくる。省略を聞かせて映画のワンシーンのような、短編小説のような世界を作っている。問題句「海鼠壁火種火柱紫荊」雰囲気や世界感は好きなのですが、どうも作為が見えてしまう。言葉がどれもインパクトが強すぎるからでしょうか。

野田　信章

特選句「紙風船大きく裂けてもの申す」は俳句然としたところもあるが、単なるユーモアとは一味違う土の匂いが快く、物に即しての諧謔性も捨て難い。「藤の花に噴かれてしまふ思案して」を問題句としたのは中句の「噴かれて」の修辞の一点にある。「思案して」〜「藤の花に」とかえる韻律に心情の響感を共有したい読み手にとっては、この修辞こそ思案してもらいどころである。

古澤　真翠

特選句「喪を灯すようです水芭蕉ひらく」水芭蕉の群生を観るたびに なにかしら手を合わせたくなるような厳かな気持ちをピタリと言い当ててくださいました。その風景が、眼前に浮かぶような感銘をうけました。

尾崎　憲正

特選句「紙風船大きく裂けてもの申す」滑稽さがある表現です。意見を述べる時には、大きく口を開いて発言する。裂けた風船にもそれを見ているのが面白く、簡潔さが生きています。次は問題句です。「春空でかがやく肺腑質のコイル」肺腑質のコイル”がどのようなものを指し示すのかが理解できませんでした。

樽谷　寛子

特選句「オムレツや椅子ごと春が立ち上がる」シャガールの絵を想い出しました。「とびっきり大きな返事入学す」この句大好きです。姪の子（小二男児）に大きな声ではっきりとと会えば言います。元気できもちのよい句です。問題句「亀鳴くやでんでん虫のかなしみに」季重さなりでは？

田村　杏美

特選句「ランドセルの列右に左に風光る」・・「ランドセルの列」という表現が秀逸です。低学年の小学生たちが、真新しいランドセルを背負って通学している場面が目に浮かびました。歩くたびに揺れるランドセル、あいだをすり抜けていく４月の風まで見えてくるようです。上五の字余りはあまり問題ではないと思っていますが、この句は「ランドセルの列」まで言い切ってこそ、味がでてくるように思います。思わず惹かれたすてきな一句です。

丸亀葉七子

問題句「詩が降りてきますふうっと繭あかり」（きます）（ふっと）はてさてこんな表現が私にはまだなれていません。おいおい理解できると思います。

稲葉　千尋

特選句「春の雨人体ほどけ羽音かな」春の雨の感じが良くかけている。「人体ほどけ」は「人体ほどく」ではどうかなと思います。

　

藤田　乙女

お茶の新芽が出て、目に鮮やかな牧之原台地の茶畑が広がっています。大井川の流れも緩やかです。美しい自然を前に一句も作ることができず、残念です。退職したらもう少し勉強します。

桂　 凛火

特選句「耳かゆし柳は水をなでにゆく」耳痒しと柳のゆらゆらがよくあっていると思います。春の気分がよく出ていてリアルな表現に感じられました。問題句「藤の花に噴かれてしまふ思案して」噴かれてしまうの意味が取りにくかったです。思案してとの関連もわかりにくいですが、気になる作品でした。

高橋　晴子

特選句「対といふ危うき形さくらんぼ」・・「さくらんぼ」の新しい見方を感じさせる。��対といふ危うき形�≠ﾆいう言葉に含まれる奥深さ、拡がり、具体的でありながら抽象的思念を感じさせる佳句。〈問題句〉大半が問題句ばかりで私には鑑賞し得ません。具体性にかけ作者が出すぎている。「俳句」になっていない！と、いっては身も蓋もないので・・「友来たる春哲学はゆりかご」「春の傘忘れ哲学入門書」の��哲学�≠ｪ生きているかどうか、「真実を言えば疎まれ万愚節」「万愚節担ぎし友に裏かかれ」の万愚節の季語にもたれた表現等々。もっと、今の自分の生きた句、真剣勝負の句を誰か詠んでくれないかな・・と、自分自身の句を反省している。

野�ｱ　憲子

特選句「雨がいて尿の極みぞ動物園」無季ですが、「雨がいて」で、梅雨時の動物園を想像します。大草原を駆け巡れない動物たちをまるごと抱えた動物園。雨の中、あちこちで尿の音がする。尿は「バリ」と読み、生きものの生命の音と捉えたいです。悲哀もあり素晴らしい詩です。問題句「鯔(ぼら)押さえランチす鶚(みさご)山笑ふ」鯔・ランチ・鶚と句材がてんこ盛りなのですが、「山笑ふ」がギュッと引き締め、本当に笑っているように思えてくるから不思議です。惹れる作品です。「スミレはただスミレのように咲けばいい。そのことが春の野にどのような影響があろうとなかろうと、スミレのあずかり知らないことである」とは数学者の岡潔さんの言葉ですが、混迷する社会に一石を投ずるような作品を一句でもつくりたいと願うこの頃です。六月の皆様の作品を楽しみにしています。

袋回し句会

雉

生傷のやうな満月雉鳴く

野�ｱ　憲子

雉食うぶ少女の八重歯太きこと

上村　良介

雉啼いて夜はちりぢりになりにけり

田村　杏美

光/H3>

青春の光と影のなつかしさ

漆原　義典

朝焼けに春の光となる大工

田村　杏美

風薫る

風薫る海岸歩く足はづむ

��木しげ子

風の貌火の貌藪椿かな

野�ｱ　憲子

切手

草餅に切手を貼ったのはだあれ

柴田　清子

切手貼る指先冷えてみどりの日

田村　杏美

夕

連翹に夕べの風の荒びそむ

丸亀葉七子

ゆるい過去ハーブティのむ春夕日

侑　　 海

泥

こでまりの花のはじけて火事泥棒

柴田　清子

泥足の桜守りたり宮司たり

丸亀葉七子

海

海深く堕ちてゆくのは紅椿

柴田　清子

海棠の散りしを踏みて猫悠悠

野澤　隆夫

海暮れて花のおぼろと混じりあひ

上村　良介

ドーナツ

ドーナツに磯の香りや春の人

野�ｱ　憲子

うかれ猫横でぎやぁぎやぁドーナツ食む

野澤　隆夫

ドーナツを食べし子等の頬は丸

漆原　義典