香川句会報 第40回(2014.06.21)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

梅雨に入るトマトも植えて大欠伸 木しげ子
眉ひくや藤の実と吾いづれかなし 小西 瞬夏
謳うこと田毎の月の水すまし 加藤 知子
瓦礫いまだヤコブのような青蜥蜴 若森 京子
ボクシング虹は白髪父子並ぶ KIYOAKI FILM
夕ぐれは薄き呼吸の野あじさい 月野ぽぽな
青蜥蜴なくしたモノを知らぬまま 三枝みずほ
夏帽子他人事のよう飛ばさるる 田村 杏美
ビル薄暑ピカソの目となるまで歩く 市原 光子
歯並びの悪い河馬です梅雨晴間 増田 天志
箱根に二日錆のきざしの山帽子 野田 信章
水無月朔葉ずれはいつも後ろから 矢野千代子
バス停まで五分薔薇咲くところまで二分 谷  孝江
甘夏やジュワッと喉に雨の粒 侑   海
万緑や尺取り虫が山登る 漆原 義典
昧爽(まいそう)の風の亀裂や深みどり 竹本  仰
しゃきしゃきと子等の輪唱初胡瓜 藤田 乙女
人間に戻つてきたか昼寝覚 亀山祐美子
MARIA帽子に螢とまらせて 野ア 憲子
土になるため猛烈に耕せり 稲葉 千尋
春炒子たんまり島離れ難し 樽谷 寛子
青葉風福井地裁の判決文 尾崎 憲正
延命草伸びたのペンケースみたいやね 久保 智恵
蛍飛ぶ哀しくきれいな切り取り線 桂  凛火
人間を下目睨(にら)みの青葉梟(あおばずく) 野澤 隆夫
梅雨寒や木偶のもたない膝小僧 丸亀葉七子
天敵を持たぬ翼や白日傘 三好つや子
浮遊せる紫陽花の球の無重力 上村 良介
紫陽花に雲居の雁のひと雫 古澤 真翠
忘れ得ぬ刻も愛なり花樗 小山やす子
夕焼けやいま胸中の修羅とをり 高橋 晴子
(句稿掲載順)

句会の窓

野澤隆夫

昨日の午後は久しぶりの俳句三昧の半日。かなり疲れたけど、楽しかったです。特選句「ビル薄暑ピカソの目となるまで歩く」先日、息子のいる錦糸町からスカイツリー、浅草を孫と3人でウオーキング。夜中に帰宅し3人はまさにピカソの目。でも翌日もでかけましたが…。「歯並びの悪い河馬です梅雨晴間」よい歯の表彰を受ける河馬もいるのかと。「ヒトは人仕込み芋焼酎甕仕込み」・・「仕込み」は「育てる」ことだと。「ああそうか」と納得で。「蟾蜍地獄の蓋揺らぐ」・・「ひきがえる」が読めず、聞いてなるほど、「地獄の蓋」が揺らぎます。問題句「饒舌な男の海鞘を啜る真夜」・・この饒舌な男の、悲しみを抱え、辛さに耐えている情感が滲み出ています。

亀山祐美子

土曜日はお世話になりました。久しぶりの「海程」香川句会、メンバーが賑やかになり喜ばしい限りです。『しゃきしゃきと子等の輪唱初胡瓜』を特選に頂きました。畑で、採れたてを丸かじりする初胡瓜の新鮮さが、子供達のたくましさと共に、親として耕作者としての喜び満足感まで伝わる佳句だと思います。『訃報とは空蝉缶のごと蹴らる』を問題句として揚げました。「訃報」「空蝉」「蹴らる」とマイナスが多過ぎます。それほどの衝撃、絶望だとしたら「空蝉」に当たるのは不適切でしょう。もっと大きな物を蹴って下さい。皆様の句評楽しみにいたしております。ではまた、来月お目にかかれますこと楽しみにいたしております。

三枝みずほ

初めて参加させて頂きました。皆様の俳句を拝見し、大変勉強になりました。これからもっと精進していきたいです。特選句「土になるため猛烈に耕せり」シンプルですがインパクトのある句だと思います。畑も人間も土台が大切。その土台を「土になるため」と表現したところが印象に残りました。問題句「焼け跡に立つ向日葵の後遺症」。後遺症とは何を示しているのか・・?何か持っていそうな、とても気になる句です。

侑    海

特選句「しゃきしゃきと子等の輪唱初胡瓜」音の感覚が夏らしく、それと子供らの歌に対する態度も好ましさを連想させて、とっても爽やかで乗りが良い句と思います。角川の「俳句」を読んでいました。その中に「句兄弟」と言うのがありました。とっても楽しく、香川句会でも一度試してみてはどうかと思いました。良い勉強になると思います。→ご提案、ありがとうございます。来月の、袋回し句会の中で、試しに、少しだけチャレンジしてみますね! 以下、→ は、野ア憲子記 

小山やす子

特選句「紫陽花に雲居の雁のひと雫」美しい連想に感じ入りました。「髪かきあげて六月の輸入雑貨店」六月の若々しい感覚。輸入雑貨店がぴたりと収まった感じです。

竹本  仰

特選句「眉ひくや藤の実と吾いづれかなし」・・「藤の実」と「吾」との対比がおもしろい。微妙なずれ具合の細かさが、かえって何か「業」のようなものへ近づいている感じがします。特選句「水無月朔葉ずれはいつも後ろから」・・「いつも後ろから」に惹かれます。存在への問いかけのような味わいがあります。問題句「前世はつばくろですと言い張ろう」・・「つばくろ」はひたむきで、むしろかなしみに満ちているという感じなので、上五中七がおもしろいだけに、「言い張ろう」はないんではないかと。 お疲れ様です。私も、近所の6人だけの句会で、似たようなこと始めました。6人とは言え、欠席すると、お知らせが意外と大変なことに気づきました。慣れなきゃだめですね。では、また、次回もお願いします。 →こちらこそ、次回も楽しみにしています。句会、頑張って下さい。

尾崎 憲正

特選句「バス停まで五分薔薇咲くところまで二分」字余りの句で散文調ですが、何でもない日常の中の嬉しさを表しているように捉えました。力が入り過ぎてないところも軽やかで好感を持ちました。問題句「草いきれ棒状に少年ナイフ出し」状況をイメージすることができませんでした。私の感性不足で問題は私の側のものです。しかし、判らぬままに、こころを惹かれるものがあります。句会当日は、途中退席で失礼いたしました。来月お会いできるのを楽しみにしております。

漆原 義典

特選句「まはるまはる木馬と風と麦藁帽」については、リズミカルで心地よく素晴らしい句だと思いました。

丸亀葉七子

気になった句「 バス停まで五分薔薇咲くところまで二分」私はこの句好きなんだけど字余りが多すぎる。字を余す必然性が見あたらない。解りすぎる。余韻と読み手の想像力をかきたてて欲しかった。バス停まで五分間の薔薇とのドラマを。

増田 天志

特選句「眉ひくや藤の実と吾いづれかなし」ナルシスの鏡よ砂金流れ出す。無常感。問題句「前世はつばくろですと言い張ろう」徒労だと分かりつつ努力する人が好きです。

若森 京子

特選句「女木男木島の遊戯三昧おぼろかな」女木男木島と云う島での遊戯三昧となれば男女のエロスを思い面白かった。特選句「蛍飛ぶ哀しくきれいな切り取り線」先日、蛍を見に行ったが本当に闇夜を切り取り線の様に光が交錯していた。実景。「哀しくきれいな」は、少し云い過ぎの様だが作者の実感なのであろう。

三好つや子

特選句「蛍飛ぶ哀しくきれいな切り取り線」哀しくきれいな切り取り線は、「生」と「死」の絶対的なはざまだと思う。もう一度会いたい、でも会えない・・・そんな顔が多くなってきたせいだろうか、とても心惹かれた。「髪かきあげて六月の輸入雑貨店」陶の花瓶や人形、ランプ、油絵など・・・西洋と東洋の混ざりあった空間が、六月の気分にぴったり。問題句「つまづきは胡椒のひとふり大山蓮華」上五と中七は、私にとっては超特選のフレーズ。でも、大山蓮華が唐突すぎて、うまく鑑賞できませんでした。

KIYOAKI FILM

特選句「土になるため猛烈に耕せり」・・「猛烈に耕せり」の、石のような、硬さが気持ち良い。一読し、疑問なく楽しめる。太鼓のようなイメージがあり、心の良い、古風な、世界。力いっぱいで、好きであります。問題句「拉致されるわたしの羽音梅雨に入る」音楽のような綴り、に魅了される。魅了されながら、「拉致されるわたしの羽音」にインパクトあり、興味深い。「羽音」と「拉致」の取り合わせが、面白い。興味深い、問題句。

加藤 知子

特選句「眉ひくや藤の実と吾いづれかなし」・・「蛍飛ぶ哀しくきれいな切り取り線」の句と、どちらを特選に採らせて頂こうかと迷った。いづれも切なさにとても惹かれた。問題句「瓦礫いまだヤコブのような青蜥蜴」ネットで調べてはみましたが、どうしても「ヤコブのような」が掴めませんでした。どの「ヤコブ」?句意も是非知りたいです。

月野ぽぽな

特選句「瓦礫いまだヤコブのような青蜥蜴」ヤコブはキリスト教の12使徒のうちの一人、大ヤコブのことだろうか。彼は漁夫であることから、この瓦礫は東北の震災を思わせる。さまざまな生き物が神の癒しを施しに来ているかのように思わされる。

古澤 真翠

特選句「眛爽の風の亀裂や深みどり」松本隆「はっぴぃえんど」さんの「風をあつめて」という歌の歌詞と風景が浮かび、一気に一九七〇年代に引き戻されました。

樽谷 寛子

特選句「国光(くにみつ)と呼びし亡弟よ初螢」国光っていい名前、名工を想い出しました。どんな人物だったのでしょうネ 合掌。特選句「甘夏やジュワッと喉に雨の粒」・・「ジュワッと喉に雨の粒」が気に入りました。問題句「万緑や尺取り虫が山登る」尺取り虫が山登る、なんて面白いつかみかた。もしかしたら人間かも!しかし季重さなりでは。→季重さなりも、また善しですよ!。

市原 光子

さまざまな観点からの多彩な句の数数を毎回楽しみにしています。勉強不足、知識不足を痛感することもたびたびです。今後ともどうぞよろしく! →こちらこそ、です。

上村 良介

今月の誤読●「援軍が来たかと騒ぎ田の蛙」。なるほどねえ。蛙界もなにかともめ事が多いようだ。「トノサマ」がいるのだから、とうぜん家来だっている。「ガマ」はさしずめ侍大将、「アオ」は保護色だから、おそらく忍びの者って感じだろう。だもんで、この句は蛙界の合戦を素直に詠んだものである。「援軍が来たかと騒」いでいるのはたぶん敵側であろう。殿、ここはいったん退却を。ええい、ものども引け引けい! ってな感じ? ところで「田の蛙」のなかにも英雄、豪傑はいるのだろうか。ねね、そういえば信長の肖像画ってなんとなく蛙っぽくない? →むむ、そういえば・・。

小西 瞬夏

特選句「MARIA帽子に蛍とまらせて」・・「MARIA」とは、聖母マリアかマグダラのマリアか、また、これをアルファベットを使って表現しているところを見ると、もっと記号的な何か、女性の悲しさの象徴のような、そんなものとも考えられる。「蛍」の情緒的なイメージを「さびしい」などと言わず。「帽子に蛍をとまらせて」とさらりと描写しているところがいい。蛍をわずかな灯りとして進もうとしているのだろうか。「とまらせて」には、小さな生き物に対する優しさも感じられる。また「とまらせて」でぷつりと終わっているので、そのあとを考えさせられる。このあと、何をしようとしているのだろうか。何をするにしても小さな希望に向かっているのは確かだ。問題句「青蜥蜴なくしたモノを知らぬまま」・・「モノ」がカタカナなのが気になる。象徴的な「モノ」にするためか?なんだかそこで句が軽くなってしまったように思う。

谷  孝江

「海程」へ入会してまだ、二年七ケ月、香川句会への参加も二回目、唯々皆様のお句に圧倒されているばかりです。選をさせて頂いているというより、私の中では勉強させて頂いている部分が多いです。句稿が届きますと本当に、どきどきして、目の前がまっ白、という感じです。繰り返し、繰り返し拝見し今回の特選二句「近況は相変わらずです海月より」「「うみほたる朔日ほろほろ自我育て」は、私的には大好きな情景でもあり、それと、言葉の優しさにも魅かれました。気持ちの中へすーっと入ってきます。迷わずに☆付けました。楽しい時間をありがとうございました。→こちらこそ、ありがとうございます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

野田 信章

特選句「春炒子たんまり島離れ難し」は一過性の旅人の視点ではないもの、伊吹島が生吹き島であることをかたち(・・・)で伝えてくれるものがここにはある。現代俳句の痩せを救ってくれるものは、このような生活者としての生身の反応を措いてはないかもとも思えてくる(自己反省の独言)  問題句「焼け跡に立つ向日葵の後遺症」は善良なる作句にして、「後遺症」と言っては損する作り方の例ではなかろうか。ここは具体的な描写の方が数段よろしいかと思う。「幾重にも巻きつく胡瓜不安症」の「不安症」にも言えることで、私も似たようなことをやりますので、自戒の意を込めての発言です。

高橋 晴子

特選句「「瓦礫いまだヤコブのような青蜥蜴」恐らく福島のことだろう。イスラエル民族の祖といわれるヤコブで福島の未来を暗示、祈りがある。問題句・・どれもこれも問題句ですが、「戦などせずともゴッホの向日葵枯れる」せずとも≠ニいう言い方に工夫がいる。ゴッホの向日葵≠ェ枯れる、では生きていない。とり急ぎ、難しい句ばかりで?私の手に負えませんや。

田村 杏美

特選句「歯並びの悪い河馬です梅雨晴間」 梅雨晴間とかばの取り合わせがいいと思いました。梅雨晴間にでかけた動物園で、歯並びの悪いかばを見つけてしまったのかも?もしかしたら、作者はかばと自分の歯並びを重ね合わせているのかも?いろいろと想像がふくらむ楽しい一句です。「風鈴やたましひ一つ鳴れば寄る」も、ミステリーの雰囲気がただよう一句です。作者の発見がすばらしく、とても惹かれました。ですがすこしだけ、「や」が気になりました。

桂  凛火

特選句「瓦礫いまだヤコブのような青蜥蜴」ヤコブのようなという比喩がよく効いていると思います。この句からは、まだ瓦礫のままだけれどいつかまた繁栄をと思わせる明るさが感じられました。青蜥蜴は、硬質な生き物ですが、どこででも生きていく逞しさや生命感がよく表れていて好きな句でした。問題句「仏も鼻ふくらます夜ぞ花蜜柑」おもしろい句だと思いました。仏が鼻ふくらます構図はユーモアがあってよいと思いますが、季語の「花蜜柑」は動く気がします「仏も」の「も」が気になりました。

藤田 乙女

力不足で、作句も選句もよくわからず、野崎さんに、継続は、力なりとおだてられ、励まされやっとなんとか続けています。小学校二年生の子供たちが、友達のように名前をつけて植え育てた胡瓜や、茄子や、ミニトマトが収穫できました。子供たちは、へちまのように大きくなった胡瓜を得意気に持ち帰っています。自分が育てた、とれたての胡瓜の味は格別だったようで、お皿に盛った胡瓜は、あっという間になくなってしまいました。胡瓜の食感から夏が始まりました。

野ア 憲子

特選句「水無月朔葉ずれはいつも後ろから」・・「水無月朔」の「朔」がいい。深い緑の中、後を追いかけてくるような葉騒、その奥の沈黙を強く感じます。問題句「夏草に満たされて居り反芻胃」やさしい牛の眼が浮かびます。ゆっくりと熟されてゆく夏草の描写に焦点をあてた作者の、着眼の面白さを思いました。それだけに、もう一歩の踏みこみが欲しいと思いました。まさに、多様性は句会の華、頂きたい作品がたくさんありました。俳句は、気合であり詩であります。本日、岩波書店から出たばかりの『語る 兜太―わが俳句人生』を買ってまいりました。皆様に、この句会報を発送したら読み始めます。五月の、「海程」全国大会in箱根では、先生の舌鋒はますます鋭く、ますます輝いていらっしゃいました。来年は、いよいよ熊谷での大会です。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

桐の花

馳走なり桐藤躑躅の三番叟(さんばそう)
侑   海
おキツネの鳥居傾ぎし桐の花
野澤 隆夫
桐の花浮かべてにらむ太閤さん
漆原 義典

サングラス

遺留品は指紋のついたサングラス
三枝みずほ
サングラス男嫌ひが寄つて来し
亀山祐美子

青組のみよちやんあつちゃんねぎ坊主
亀山祐美子
初夏の組(クラス)和するやエグザイル
野澤 隆夫

夏布団

夏布団朝はまだまだずり上げる
中西 裕子
夏布団干して真昼の漁師町
丸亀葉七子

アンテナ

アンテナは椋(むく)の縄張りがなり立つ
野澤 隆夫
アンテナを狂はす夏の女かな
亀山祐美子

あめんぼう

水馬現れしばかりの潦
丸亀葉七子
水澄日当たるところ急ぎけり
亀山祐美子
煮詰まって睨む曇天あめんぼう
野ア 憲子
水馬や個性というものわからない
三枝みずほ

夏至

夏至西日仏に至る道なりき
侑  海
太陽が寝不足気味ね夏至の夜
漆原 義典

梅雨

梅雨寒や一人遊の子の顔に
木しげ子
石笛にほのと唇梅雨の月
野ア 憲子

 
掘割は青い阿波石通し鴨
丸亀葉七子
空青いから大きく一歩アロハシャツ
三枝みずほ
青田ゆく千万の風嗚呼讃岐
野ア 憲子

句会メモ

「海程」香川句会は、今回で、第四十回となりました。お陰さまでございます。夏至の日の句会でした。初参加の三枝みずほさんは、このホームページをご覧になってのご参加です。嬉しかったです。そして見学の中西裕子さんにも、袋回し句会にご参加いただきました。今回も、お題も、作品も、面白く、あっという間の四時間弱でした。勉強になりました。全句掲載できないのが残念です。ご参加の皆様、色々とご協力を有難うございました。今後とも、よろしくお願い申し上げます。次回のご参加を楽しみに致しております。

野ア憲子記
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