香川句会報 第46回(2014.12.20)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

行き暮れる夜に芽生えし思い茸 中野 佑海
雪虫にそこそこの脚タップふむ 小西 瞬夏
カモメ飛ぶ師走の空や白し白し 木 繁子
寒土用ちりちり素陶乾くかな 郡  さと
冬の蝶軽くて柔い頭痛です 久保 智恵
寒林に雨ふる人間に雨ふる 月野ぽぽな
十字架を離れ凍蝶融けはじむ 若森 京子
バックミラーを猿がよぎるや冬木立 な お み
倒木の怪獣めきて雪の原 景山 典子
歩き出す朝それぞれの白い息 河野 志保
後ずさりして冬滝が身の芯に 柴田 清子
初氷割つてでてくるものもゐて 田村 杏美
サーカスはまだ終わらない冬紅葉 増田 天志
艶めきて木肌岩肌今朝の冬 野田 信章
着膨れてウサギになりたい子の歩幅 三枝みずほ
真弓の実真実姉は逝きにけり 稲葉 千尋
原発を走る断層冬の雷 尾崎 憲正
いざ行かんポインセチアのステージに 野澤 隆夫
糸菊の眩し女って白日夢 桂 凛火
青どんぐり夢合わせして秩父かな 小山やす子
純粋老人大つごもりの湯に沈む 重松 敬子
麦の芽や粛々と兵馬俑 漆原 義典
精進して忍びて冬を高倉健 高橋 晴子
木枯らしは不可視の龍不死の骨 銀   次
手袋を片っぽ落とし狐鳴き  古澤 真翠
通りやんせ師走の寺のがらんだう 亀山祐美子
如意輪の指先花びらの湿度 加藤 知子
前科あります冬のまつ赤な薔薇の棘 谷 孝江
旅よ旅よ父母は福笑いにはならぬ KIYOAKI FILM
ずぶ濡れの桃ほどかはゆきものはなし 竹本 仰
大根下す口惜し涙のようにかな 市原 光子
くすぐったい人間関係豆焦がす 三好つや子
褐色の枯葉になりて地の恵み 中西 裕子
聖樹通りこれって怒りの連鎖かも 矢野千代子
少年と少女の時間冬林檎 野ア 憲子

句会の窓

三枝みずほ

特選句「いざ行かんポインセチアのステージに」ポインセチアのあるステージに立てる人は選ばれし者で、そこに立つ責任、意気込みが上五でしっかり表現されている点に惹かれました。堂々としていて、勢いがあって、かっこいい句でした。問題句「地球の裏に泳げない鯨たち」とても惹かれたのですが、なぜ、地球の裏なのか、鯨なのか、謎だらけでした。未だその謎が解明されない興味深い句なので、問題句とさせて頂きました。

野澤 隆夫

特選句「純粋老人大つごもりの湯に沈む=ィ小生も今年は「老人力」が認められたのかと…。先日、地区の老人会会長さんから「地区老人居場 所作り」の」代表に推され、戸惑いつつも承諾。十分な「老人力」は発揮できないが、それなりに「やってみるか」と思った矢先の純粋老人…≠フ秀句。今年の大つごもりは先般、逝去された、赤瀬川原平の提唱した概念「あいつもかなり老人力がついたきた」というプラス思考でじっくりお湯につかるつもり。でも「老人、湯に浮くのでは…」とおっしゃる方もいましたが…。

古澤 真翠

特選句「如意輪の指先花びらの湿度」季語を超越して、冷え冷えとした御堂に一人佇み 凛とした空気が漂ってくるような句…。一気に私をその場所へ運んでくれました。今年も 余すところ一週間となりました。たくさんのご厚情に 心から感謝申し上げます。どうぞ 良いお年をお迎えくださいませ。

増田 天志

特選句「雪虫にそこそこの脚タップふむ」軽快な筆致の句ですね。特選句「十字架を離れ凍蝶融けはじむ」イエスが生き返ったのかも。自句自解説を少し。「地球の裏に泳げない鯨たち」の句は、夭折を詠んでいます。

中西 裕子

特選句「歩き出す朝それぞれの白い息」身の引き締まるような寒い朝、それぞれが旅立つのでしょうか。静かな決意を感じます。特選句「凍蝶をふとつまんではまたはなし」なにか悩んでいるのか退屈しているのかふと、つまんだのが日常的ではない凍蝶というのが、新鮮な感じでした。絵の中に立ちどまるよう黄落期、絵のような美しい風景が浮かびます。

月野ぽぽな

特選句「糸菊の眩し女って白昼夢」たとえ自分が女だったとしても、いやそれだからこそなおだろうか、女とは摩訶不思議であると感じることしきり。それを白昼夢とする魅力的な把握。菊の精緻さ・目眩するようなその光が「女って白昼夢」の観照を深めている。

竹本 仰

特選句「後ずさりして冬滝が身の芯に」昔読んだつげ義春の漫画に、「ゲンセンカン主人」という作品があったのを思い出しました。前世という趣きが奥にあって、過去の自分が、もう一人の自分に追いつめられるという、シュールな作でしたが、その追いつめられた主人公の形相を、なぜかこの句に感じました。この句では、多分、冬滝の姿に、自分の何かを言い当てられたのを感じ、後ずさりせざるを得なかったのではないかと思えますが、「迫真」の感じがあり、その辺りの厳しさと、語順と、うまく合っているのではないかと思います。特選句「如意輪の指先花びらの湿度」如意輪観音さまの指先の触感でしょうか。その指は、花を持っているのかどうかはわかりませんが、何かを咲かすような生生しい感じを作者は受けたのでしょう。仏像も見る日によって、或いは見るときによって変化します。しかし、こう思えた感触は、意外と長くつづくものではないかと思えます。なぜなら、こちらの心とほとけの心との、均衡が生み出す感触がそこにあるからだと思います。通常の感覚とは異なる、生命感のいまひとつ深いありさまがうかがえる句だと思います。問題句「前科あります冬のまつ赤な薔薇の棘」面白い着想の句です。「ます」はどうか。むしろ、薔薇の醍醐味のひとつに、その虚実と深みを加えるのであれば、「ます」の語感の甘さはどうか。また、「棘」は隠れていて、あるように思わすような使い方をした方がいいのでは?以上です。寒さ厳しいですね。淡路も四国も、寒さより、寒さに対する無防備が悲しいかな、です。いつもありがとうございます。来年も、よろしくお願いします。よいお年を。

景山 典子

特選句「石蕗咲いて少年の闇深からん」明るい黄色の花ですが、「石蕗の花心の崖に日々ひらく」(横山白虹)の句にもあるように、石蕗の花にはどこか暗いイメージもあります。それが、揺れ動く思春期の少年の心の闇と、よく合っていると思いました。

尾崎 憲正

特選句「寒林に雨ふる人間に雨ふる」とてもリズム感がいい句です。雨のかたちを用いた自然と人に対する優しさが充溢しています。今の時代を厳しく問い正しているようで、簡素な中に深い味わいがあると思いました。特選句「褐色の枯葉になりて地の恵み」紅葉は見事な景色ですが、楢とか欅、ぶなの類は地味な褐色で梢を離れます。それが山中の地面に散り敷いて、春の芽吹きの栄養になって自然界を支えます。この句は輪廻の過程を実に見事に表現しています。枯葉は地の恵みとなって再生できるのですが、はたして人間は次世代の“恵”になれるものかと、自ら問わずにはいられません。

亀山祐美子

特選句「氷割ってでてくるものもゐ』初氷のあちら側とこちら側、不本意に閉じ込められた何者かが飛び出して来る!ホラーですね!大者が飛び出した後には、小者も居残っているんですねぇ。親近感湧きますねぇ。飛び出して来るのは、作者の自我に外ならないとすれば、それもまた恐いです。『石蕗咲いて少年の闇深からん』の「咲いて」が気にいりません。「〜して〜」「〜を〜」には理屈、ことわり、説明があり、作者の感情移入があるかと思います。一句に余情を残そうとすれば廃除すべきものなのですが、いかんせん作句しやすい手法なので、自戒すべきだと肝に銘じております。「石蕗の花」であれば、特選で頂きました。同様に『艶めきて木肌岩肌朝の冬』は「艶めきぬ」、『着膨れてウサギになりたい子の歩幅』は「着膨れの」とすればいかがでしょうか。俳句は感情を俳し物に語らせる文芸だと教わりました。頑固で申し訳ありません。『鮫の顔して真夜中の身辺整理』はよく解るのですが、付きすぎて頂けませんでした。また、無季節だと思いましたが、「鮫」が冬だそうでしが、「鮫のような顔」という用い方は如何なものでしょうか。増すます参加者が増えお忙しいでしょうが、ご自愛下さいませ。来年もよろしくお願いいたします。良いお年を!

若森 京子

特選句「糸菊の眩し女って白日夢」ある菊花展で糸菊の複雑で重厚なあやしい魅力にしばらく立ち止まった。下句との呼応があやしく響く。特選句「旅よ旅よ父母は福笑いにはならぬ」全体の印象は散満の様だったが繰り返すうちに、今は亡き父母に対する郷愁の思いに胸がきゅんとなる。「旅よ旅よ」がドラマチックに始まっている。

稲葉 千尋

特選句「冬の蝶軽くて柔い頭痛です」頭痛もちにはよく分る句です。「冬の蝶」の季語が良い。特選句「冬銀河悠悠とあり遠い戦火」遠い戦火ですが、もうすぐ近くにも。冬銀河のまばたきの優しさがあればと思う。「雪虫にそこそこの脚タップふむ」・・「タップふむ」が佳い。「冬眠す二重括弧の中にかな」なにかあたたかい居眠り。「手袋を片っぽ落とし狐鳴き」狐の鳴き声聞きたい。「ふところに冬蝶探す右手かな」作者の心の中はやさしい。「冬の虹生き方死に方同心円」冬の虹からの飛躍をよしとする。「大根下す口惜し涙のようにかな」(下しは卸しでは?)いいえて妙である。「寒紅の言い分に隙なかりけり」ピシッと引いた口紅の感。「鮫の顔して真夜中の身辺整理」真剣に取り組んでいる。今回は、選句苦しかった、難しかった。私の方が衰えたのかなぁー今、句も出来ない。苦しさの中です。

KIYOAKI FILM

問題句「無言劇(パントマイム)惚けちまったねこじゃらし」個人的に惚け・衰え・障がいがあり、親近感が涌く。全然問題句ではなく、特選句、超・特選です。けれど、問題句と思います。特選句「冬の日をおんぶしランナー完走だ」良いなあ。が、しきりです。「おんぶしランナー」が利き目です。

中野 佑海

特選句「着膨れてウサギになりたい子の歩幅」の句ですが、前半部分がもう可愛らしさムンムンで、ウサギなのかと思わせ振りしといて、実際はペンギン・と言う、落ちまで付き、メルヘンです。これは、結構笑わせて下さいます。有難うございます。問題句「鮫の顔して真夜中の身辺整理」ですが、これはこのままで夜に探し物している我が身に摘まされます。ですが、俳句ですので、五七五で作っても良いと思います。「真夜中に身辺整理鮫の顔」以上、佑海でした。

郡 さと

特選句「初雪はガラスの向かふパンを焼く」句会での袋まわし、限られた時間の中で集中力を出し、人生経験、想い出が頭の中を駆け巡り、良い句が思いかけず生み出されます。理屈が抜かれ、てらいの無い、こてふらない素直な句が沢山出てきます。秋から春への、季節の一過。パンを焼くのは、営営とつずく生活の営み。ガラスの玻璃の向こう側に初雪が舞っている。初雪だからいい。限定して、風吹、雪しまく、雪晴れ 等々にすると単なるその日のことだけ。初めての雪だから、これから起こることへの、未来がある。荒れる雪かもしれないが、その向こうにある春が見えます。明日もパンを焼きす。そんな句を少ない時間の中から作つた。生まれた句バンザイ。。袋回しバンザイ。。→郡さんは、「事前投句に特選無し」とおっしゃっていました。特選句は、袋回し句会の作品です。辛口のご意見、感謝です。思った通りの感想を出しあうのが、何より大切と感じています。

三好つや子

特選句「冬の蝶軽くて柔い頭痛です」嬉しい事があれば治ってしまいそうな、女性的な頭痛と冬の蝶の取り合わせに共感。特選句「 純粋老人大つごもりの湯に沈む」私たちは老いる事によって、社会のしがらみの中で封印していた少年、少女時代のピュアな感情を取り戻すことができるのだと思う。少しの事で怒ったり、泣いたりして、周りの人を困らせ、その事すらも忘れている愛すべき老人が、大晦日のお風呂を一途に楽しんでいる姿を想像。問題句「湯冷めしたことば散りぬるかまどうま」秋と冬の季語が入っているから、という理由ではなく、上五中七と下五の必然性に無理があると感じました。

小西 瞬夏

問題句「冬の蝶軽くて柔い頭痛です」詩情はたっぷり、「冬の蝶」という具象と「頭痛」という身体感覚が独特の視点で描かれている。ただ「軽い」と「柔い」が気になるし(それがなぜか、読者がさぐりたい気分を言われてしまった抵抗感だろうか)、それにあわせて「です」がこの場合は甘すぎると感じる。特選句「少年と少女の時間冬林檎」静謐で透明な時間と空間と甘酸っぱい気分。この少年と少女は、大人になった人の中にもいつまでも棲んでいるのだ。真っ白なキャンパスのなかにぽっかり浮かぶ赤色。なにも描かれていない空間には、読者がそれぞれの物語を描いていく。小学生にもわかる言葉でこれだけのことが表現されることがすばらしい。

重松 敬子

特選句「着膨れてウサギになりたい子の歩幅」ウサギに成り切っている。子供の可愛らしいしぐさが目に浮かびます。歩幅が楽しい。

河野 志保

特選句「夢を無くしたり真冬野さながらに」一読してリズムの良さを感じた。「夢を無くしたり」の切れが効いているからだろうか。ストレートな読み口に好感。

市原 光子

作句も選句も年齢と共に変化してゆくのを自覚するこの頃です。皆様の評を読みながら、こんな読み方もあるのだなと感心することしきりです。

漆原 義典

特選句「枯ればかり続く水辺に佇てば孤児」すべてを削ぎおとした木肌を艶めくと表現し、また岩肌と対比させていることに、冬のエロスを感じました。素晴らしい句と思い特選とさせていただきました。

加藤 知子

特選句「鮫の顔して真夜中の身辺整理」ひとつずつ見ながら整理していたら、とうとう真夜中になってしまった。鮫の顔とは、冷徹に思い切って処分せねばと思う覚悟の顔。特選句「大根下す口惜し涙のようにかな」まず、「下す」「下ろす」「おろす」のうち、どれが適切なのか。大根おろすには、けっこう力が要る。口惜しいことがあった後くらいのほうが良い。問題句「枯野に散らばる使い捨ての視線」面白い視線を捉えてあると思いますが、「散らばる」「使い捨て」の言葉が少し生っぽい気がします。

野田 信章

特選句「 聖樹通りこれって怒りの連鎖かも」は、十二月の大気の中の煌き、現代の世相の底を貫くもの、不確かにして確かなもの、もしかして〈これって怒りの連鎖かも〉とのかるい呟きが重たいのだ。かたちで書くということは感の昂揚あってのことかと示唆してくれるものがある。きれいな聖樹の景ではないがここに現出している景こそ美と思える。このことが読み手にとっての連鎖であり、連帯感というものかも。

桂 凛火

特選句「麦の芽や粛々と兵馬俑」・・「麦の芽や」に始まりが新鮮でした。取り合わせの兵馬俑も意外性があり、「粛々と」の表現も魅力的でした。何も珍しいことを言っていないようで珍しい風景が見えました。生命感と無機的な取り合わせも妙に明るく、洗練された一句がと感じました。問題句「びっくりマークだらけの文よ冬晴るる」散文的ではありますが、破調の面白さが、あって楽しい句になっていると思います。「冬晴れる」の季語もよく合っていていいと思います。

銀  次

今月の誤読●「聖樹通りこれって怒りの連鎖かも」。この文章が読まれるころはもはや季節は過ぎているだろうが、クリスマスはバレンタインデーと並んでもっとも忌まわしき行事である。わたしの属している飲み会のひとつに「モテない同盟」というのがある。文字通り異性にモテない男女が世を呪い、たがいの境遇を嘆きつつやけ酒を飲むという、じつにしみじみとしたお通夜のような会である。だがクリスマスシーズンともなれば別だ。わたしたちは荒れる。「聖樹通り」? なんじゃ、そりゃ! フリーメーソンの陰謀か! ここでコップのふたつみっつが割れる。この時期、ラブホが予約でいっぱいなどという話題を持ち出そうものなら、テーブルはひっくり返り、椅子が飛ぶ。明日の日本はどうなる! と心配するやつもいる。たぶん(わたしの目分量だが)国民の三割方はこちら(モテない)派だ。彼らの怒りはじつは町ゆく人たちの三人にひとりが抱えているのだ。詠み人よ、あなたは自覚していないだけなのだ。「これって怒りの連鎖かも」、さよう、あなたはモテない派の怒りをキャッチしたのだ。連鎖する怒り。さあ、これを共有しようじゃありませんか。われら「モテない同盟」はいつでもあなたを歓迎します。入会金不要。年齢性別不問。駅から徒歩三分。早い者勝ち。即入居可。  

高橋 晴子

特選句「少年と少女の時間冬林檎」豊かな気分で少年と少女の時間゜と冬林檎の持つ色・形からくる気分が匂いあう。問題句「原発を走る断層冬の雷」厳密に言えば原発の下に゜でしょう。問題句「隙間風底冷えひたすら轆轤蹴る」どちらかにして句姿を整えたらいい句になる。「隙間風」と「底冷え」、寒さがだいぶ違うので人間が見える。

小山やす子

特選句「サーカスはまだ終わらない冬紅葉」紅葉も済み山は冬の装いをしているのに・・・生きることの厳しさが伝わってきます。「枯ればかり続く水辺に佇てば孤児」若い内は親兄弟も居たであろうに、ふと気が付けば何時しか老いた自分が居て・・・そんなストーリーにしてしまった。「寒林に雨降る人間に雨降る」侘びしさがひしひしと伝わってくる。「くすぐったい人間関係豆焦がす」」ゆっくり豆を煎っていくうちにうっかり焦がしてしまったフレーズがくすぐったい人間関係と呼応して面白い。

な お み

特選句「「通りゃんせ師走の寺のがらんだう」・・「通りゃんせ」と童謡が思い浮かぶ言葉に師走の寺そして、がらんだうとそれぞれ魅力ある言葉をならべて一つの句にしているすごさに感動しました。「冬うらら未の風の吹きゐたり」(袋回し句会)冬うららの季語に未の風と頬に風が〜体感しているように感じる句でした。「未の風」がとても好きです。

谷 孝江

特選句「糸菊の眩し女って白日夢」広辞苑に白日夢とは、非現実的な空想をたくましくすること、とありました。そうです女って。歳を重ねても女はおんな、なのです。夢を見続けたいのです。特選句「冬の猫直視一瞬の青味」この猫は野良猫でしょうね。修羅場を潜り抜けてきたような凄みを感じます。飼い猫の甘さは嫌いです。大体猫嫌いですので・・その他「寒林に雨降る人間に雨降る」も句の中にある切なさが私的に好きです。今年も沢山の良い句を見せて頂きました。有り難うございます。良いお年をお迎えください。来年もよろしくお願い申し上げます。

野ア 憲子

特選句「いざ行かんポインセチアのステージに」この漲る熱気に思わず一句、「集まつてポンセチアの第九かな」。夢のステージへと、読者も誘ってくれる作品です。問題句「 聖樹通りこれって怒りの連鎖かも」話言葉で書かれて、解りやすくそして、ドキっとする作品です。クリスマスシーズンになると、あちこちで、電飾の聖樹が姿を現します。でも、木の心は・・夜も眠れず、怒り心頭かも知れません。木々のイルミネーションは、美しいものですが、見る側と、見られる側の、思いの違いを発見した作者に脱帽です。人類の深い闇をも捉えた、凄い問題句だと思いました。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

穢土もよし冬の月下の泥酔王
銀    次
ラッセル車来る王者たる風格ぞ
郡  さと
初夢や海賊王になる予感
田村 杏美
大根葉のシェルターとなる美白王
中野 佑海
追放の王のさ迷ふ冬野かな
景山 典子
山眠る王手飛車角二枚落ち
亀山祐美子

古希祝う皿に煌めく枯葉かな
中野 佑海
枯園に石の橋あり滝のあり
郡  さと
つまずきし唄木枯しになってゆく
亀山祐美子
枯葉踏むもう一度だけやり直す
柴田 清子

雪女が戻りし三面鏡の中
三枝みずほ
盗賊のやつて来さうな雪の夜
景山 典子
初雪や猫玉となり弓となり
田村 杏美
雪仰ぐ浮遊の一瞬地を忘る
銀   次
初雪はガラスの向かふパンを焼く
銀   次
初雪や原爆ドーム工事中
野澤 隆夫
マカロンのつぶやきとなる雪の雷
野ア 憲子

クリスマス

クリスマス賛美歌聞いた日は聖女
中西 裕子
電話ボックスぽつんとクリスマスソング
郡  さと
デイサービスサンタ姿の運転手
な お み

ラーメン

 
ラーメンの湯気になりたい聖夜かな
田村 杏美
冬怒濤みたいな真夜のラーメン屋
柴田 清子
サンポートラーメン店減る年の暮
漆原 義典
着膨れてふうふうと喰ふラーメンかな
な お み
遅刻するぞ葱ラーメンを頬張る子
野澤 隆夫

冬うらら未の風の吹きゐたり
野ア 憲子
未年巳年生まれはしゃべりだす
漆原 義典
雪女に未来あるないきっとある
柴田 清子

句会メモ

今年最後の句会は、雨模様の中、十五名の参加で開催されました。実は、句稿に記載漏れの句があるのを、句会当日に気付き、句稿の手直しをしてから会場へ向かいました。開催時刻の午後一時には、何とか間に合いましたが、ご参加の皆様に、大変、ご心配をおかけしまた。私を見てほっとされたご様子に、感動いたしました。今回は、メールでいただいたご投句に返信だけして、句稿に貼り付けるのを忘れていたのです。私の、うっかりミスです。これからは、きちんとチェックしようと思います。

事前投句の合評は、ベテランの方々の忌憚の無いご意見に、何度もなるほどと思いました。俳句は、<世界最短定型詩>です。色んな、解釈ができるほど、面白いとも思います。議論が盛り上がり、袋回し句会の時間が、ちょっと押し気味になりました。それもあって、袋回しのお題を五つに絞って行ってみました。お題を、前もって楽しみに考えてこられた方もいらっしゃったかも知れないでので、一人一題といかないまでも、もう少し増やせば良かったと思いました。

今年、一番印象に残っているのは、三月の塩江・伊吹島吟行です。香川句会の皆さまの他に、関西合同句会の諸先輩や武田編集長も参加くださり盛会で、よかったです。吟行の後の句会の作品は、句に漲る力が、どこか違うように感じました。来年は、六月の句会場が取れなかったので、塩江へ一泊合宿を計画しています。螢の季節です。奮ってご参加ください。今年も、大変お世話になりました。ありがとうございます。それでは、皆様、佳いお年をお迎えください。

野ア憲子記
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