香川句会報　第49回(2015.03.21)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

　

今って誰かの遠い昔の春の夢	月野ぽぽな
旅先の天気予報や黄砂降る	��木　繁子
標なくただよふ日本鳥帰る	景山　典子
出来かけの虹透明な意志あらむ	竹本　仰
肉じゃがの玉ねぎ甘く涅槃西風	伊藤　幸
啓蟄や八十年をにんげんで	谷　孝江
白魚縺れあう夜暗号回路	桂　凛火
砂塵にすみれサムライの弔歌かな	増田　天志
体内に曖昧な部屋春障子	若森　京子
菜の花が体を通りすぎて雨	柴田　清子
祇王寺やぽとりと椿人を待つ	古澤　真翠
春暁や土の天使とワルツ舞う	漆原　義典
吐息までひかりだしさう春曙	田村　杏美
愛されし頬の囀り小糠雨	中野　佑海
雛の間にゐてわたくしをしまふ箱	小西　瞬夏
桜咲いて向こうに人のいない町	久保　智恵
流さずにあれば吾にも古雛	郡　さと
痛みには貼ってよく効く朧月	銀　　次
三の谷四の谷どこも蝌蚪の時間(とき)	矢野千代子
関取は美男子揃い桜鯛	重松　敬子
春の星ちゃぶ台だけのワンルーム	三枝みずほ
イヌフグリ地の星九条永らえよ	野田　信章
春おぼろ山に五郎助未老年	尾崎　憲正
冬の欅大柄でいて緻密なり	稲葉　千尋
含羞という物の芽の皺であり	三好つや子
ぶら下がるあれが目白の古巣だと	野澤　隆夫
神の山佛の谷と恋の猫	高橋　晴子
桜咲く夕べを焚いて蹄鉄師	小山やす子
霞濃し今日は悪女の紅をひく	中西　裕子
切株に石に人座す藪椿	亀山祐美子
友の寿司食べて命の櫻かな	ＫＩＹＯＡＫＩ　ＦＩＬＭ
空海忌いきなり風の万華鏡	野�ｱ　憲子

句会の窓

野澤　隆夫

２月の「海程」香川、欠席だったので、久しぶりに楽しかったです。いつもの��漢�≠ﾉ加え、滋賀から青春キップの天志さんもお見えで面白い話も聞けました。今回も1月に続き、小生の社会へ出た第一歩の句が出て来て、特選句に　「春の星ちゃぶ台だけのワンルーム」を頂きました。昭和３９年に初めて小豆島で下宿。日舞の師匠さんのお宅は下宿屋さん。いまのワンルーム・マンションではもちろんなく、襖で仕切られたワンルーム。６畳の部屋にちゃぶ台が置かれてあり、３年間、机としても使った思い出があります。問題句「猟期果つ漢の落とす五円玉」。「五円玉の穴から覗いて猟をし、シーズン ・オフで必要なく、落してもほちゃくった」と…？分りません。でも十円、百円では駄目なのでしょう。面白いです。

月野ぽぽな

特選句「啓蟄や八十年を人間で」人間として生まれ人間として生を営む不思議が意識されているところに共感。啓蟄の季節感がその意識の前向きさを支えていて好感。

増田　天志

いろいろ有難うございました。特選句「白魚縺れあう夜暗号回読」遺伝子の交接なのか、睦み合う。「桜咲く夕べを焚いて蹄鉄師」柔らかい鉄を打つ、一瞬の桜色。問題句「春星をラクダが食べたがってゐる」砂漠を生き抜くためには、夢を見ることが大切。→こちらこそ、遠路ありがとうございました。お陰さまで、賑やかな、楽しい句会になりました。また、是非おいでください。「海程」関西合同句会でもお目にかかれたら嬉しいです。

尾崎　憲正

特選句「標なくただよふ日本鳥帰る」おそらく今の社会を詠まれたのではないでしょうか？“標なく”がなんともうまく表現していると感心しました。賑々しい日常に漂よう不安感と不信感を捉えられた作者の視点の確かさが見られます。でも、このような好句が生まれないのが社会のあるべき姿なのでしょうね。問題句は「痛みには貼ってよく効く朧月」リズムはすごく好いのですが、私には“朧月を貼る”とういのがよく分からなかったのです。

中野　佑海

特選句「痛みには貼ってよく効く朧月」・・「貼ってよく効く」が朧月とかけはなれていて面白く、それもくっきりとした秋の月じゃあないぼんやりで本当に効くの？って所が惚けていて、似非薬っぽくて良いです。宣伝効果ばっちり。増田さんはお元気でしたか？お会い出来ず残念でした。句会も 毎月の楽しみなのに出席出来ず本当に残念です。人生はまだまだあるとは思っていますが、自分の思っていることが、実行出来る時と出来ない時はまじりあって、進んで行くのですね！また、お会い出来る日を楽しみに励みます。佑海→ハイ、増田さん、お元気で、ますます毒舌が冴えわたって（ごめんなさい）いらっしゃいました。永遠の少年みたいです。熱く楽しい句会でした。お孫さんのお世話大変ですね。私も、よくわかります。後少ししたら、もっと自由に動けると信じています。とにかく健康が第一です。ご自愛を１！

古澤　真翠

特選句「よく笑う米寿の母や桃の花」朗らかなお母様なのでしょうか。素敵な年齢を重ねられたご様子が鮮やかに浮かんでまいりました。私も かくありたいとしみじみ思う素直な表現力に脱帽です。

景山　典子

特選句「背に羽根の記憶残れり春来たる」物語の世界では肩甲骨は人間が天使だったときの翼の名残だとか言われています。蝶になり、鳥になり野や空を自由に飛び回れたら良いなあ、とそんなことを空想しているのでしょうか？楽しい句です。

竹本　仰

特選句「雛の間にゐてわたくしをしまふ箱」雛祭りの終わりの頃でしょうか、ふと自分探しの間があったのでしょうね。多分、作者は女性だと思うのですが、この「箱」は年齢により異なるものでしょうね。引越しであったり、結婚であったり、引退であったり、ホームであったり、はたまた棺であるかも。むかし、「箱入り娘」という言葉を聞いて、そうか箱で生きているんだとふと変なイメージを浮かべた児童のころがありましたが、たしかに箱で生きられるんですね。その意識が強いか、弱いかは別として。亡くなった方も、畳の上だとまだ家族の一員というところですが、棺に入るともう途上のひとになってしまいますものね。安倍公房に「箱男」ってありましたが、あれも存在感を求める涙ぐましい男たちの箱化のドラマでありましたね。あと、この句には何か居ずまいを正した、そういう観想のような響きがあって、いいなと思いました。特選句「百千鳥たった一つの鏡より」多分、朝の句なんだろうかと勝手な想像しますが、鏡をのぞきこんでいるその背後で、百千鳥の声がわっと、というのか。鮮やかですね、その目線の前後、高低、明暗、シャープです。で、その声にとらわれると、目の前の像はたちまちに朧化して、目に見えない百千鳥の世界に引き込まれるんでしょう。ここに何かしら、虚実のみごとな転換があるのかもとも。その百千鳥は、にぎやかな、そしてまた、猛々しい親和の世界をも表わしているように思えます。小野茂樹に名歌「あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ」がありました。この句にも、匂いとして、現在から過去、そして未来へとつづく流れがあるように感じます。そういう連想に誘うのも、ひとえに「百千鳥」と「鏡」の取り合わせのみごとさにあるのだろうかと、私なりに鑑賞いたしました。問題句「春星をラクダが食べたがってゐる」ダダ的な句で、問題句というより、こういう句に何かしら協賛したい自分を感じました。「トタンがセンベイ食べて/春の日の夕暮は穏やかです」というダダ少年時代の中也の詩を思い出します。ダダだ。というそれのみで、同郷のひとに会ったような。でも、この句、けっこうスジが通っていますよね。平和とか、希望とか。そう言えば、故・米朝師匠に「らくだ」という落語がありました。らくだというあだ名の男が長屋で死にましてな、という、これもダダ的な始まりと展開で、二人の縁の無いようで縁のできた男が、最後は伊勢音頭を唄いながら棺桶を千鳥足で運び出すという、あの荒唐無稽なストーリーが成り立つのも、らくだという始まりのお陰なのでしょうね。特選句「雛の間にゐてわたくしをしまふ箱」雛祭りの終わりの頃でしょうか、ふと自分探しの間があったのでしょうね。多分、作者は女性だと思うのですが、この「箱」は年齢により異なるものでしょうね。引越しであったり、結婚であったり、引退であったり、ホームであったり、はたまた棺であるかも。むかし、「箱入り娘」という言葉を聞いて、そうか箱で生きているんだとふと変なイメージを浮かべた児童のころがありましたが、たしかに箱で生きられるんですね。その意識が強いか、弱いかは別として。亡くなった方も、畳の上だとまだ家族の一員というところですが、棺に入るともう途上のひとになってしまいますものね。安倍公房に「箱男」ってありましたが、あれも存在感を求める涙ぐましい男たちの箱化のドラマでありましたね。あと、この句には何か居ずまいを正した、そういう観想のような響きがあって、いいなと思いました。特選句「百千鳥たった一つの鏡より」多分、朝の句なんだろうかと勝手な想像しますが、鏡をのぞきこんでいるその背後で、百千鳥の声がわっと、というのか。鮮やかですね、その目線の前後、高低、明暗、シャープです。で、その声にとらわれると、目の前の像はたちまちに朧化して、目に見えない百千鳥の世界に引き込まれるんでしょう。ここに何かしら、虚実のみごとな転換があるのかもとも。その百千鳥は、にぎやかな、そしてまた、猛々しい親和の世界をも表わしているように思えます。小野茂樹に名歌「あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ」がありました。この句にも、匂いとして、現在から過去、そして未来へとつづく流れがあるように感じます。そういう連想に誘うのも、ひとえに「百千鳥」と「鏡」の取り合わせのみごとさにあるのだろうかと、私なりに鑑賞いたしました。問題句「春星をラクダが食べたがってゐる」ダダ的な句で、問題句というより、こういう句に何かしら協賛したい自分を感じました。「トタンがセンベイ食べて/春の日の夕暮は穏やかです」というダダ少年時代の中也の詩を思い出します。ダダだ。というそれのみで、同郷のひとに会ったような。でも、この句、けっこうスジが通っていますよね。平和とか、希望とか。そう言えば、故・米朝師匠に「らくだ」という落語がありました。らくだというあだ名の男が長屋で死にましてな、という、これもダダ的な始まりと展開で、二人の縁の無いようで縁のできた男が、最後は伊勢音頭を唄いながら棺桶を千鳥足で運び出すという、あの荒唐無稽なストーリーが成り立つのも、らくだという始まりのお陰なのでしょうね。

三好つや子

特選句「体内に曖昧な部屋春障子」楽しくもあり、哀しくもある、春の心模様がうまく表現され、春障子という下五の着地が見事です。特選句「よそ見している春風のチンパンジー」一見、従順そうに見えるチンパンジーの、ささやかな抵抗、そして無言の叫びみたいなものを感じました。「春の部屋吊るして闇となる喪服」弔ったのは知人、あるいは友人だろうか・・・。かすかに線香の匂いのする喪服の存在感と、作者のやるせない気持ちに共感。

若森　京子

特選句「雛の間にゐてわたくしをしまふ時間」��自分をしまう箱�≠ﾉ着目。雛にまつわる今迄の思い出であろうか、それとも女性なので第二の人生の出発なのかしらと色々思いをめぐらした。特選句「含羞という物の芽の皺であり」含羞の比喩が大変面白い。まさしく、それらしいのが良い。

三枝みずほ

特選句「冬の欅大柄でいて緻密なり」冬の欅の姿、そのものの性質を上手く捉えている句でした。また、こんな人がいたらきっと惹かれるなあ・・・と勝手に思ったり。ストレートで的確な表現で印象に残りました。問題句「大和民族ならばわたくし花になる」順接か逆接かどちらの意味なのか疑問だったので、問題句に選びました。句会でも話題となり、今となれば、「大和民族だからこそ」という捉え方のほうがしっくりくると理解。このような表現方法もあるのかと勉強になりました。以上です。

漆原　義典

特選句「よく笑う米寿の母や桃の花」は、お元気なお母さまの明るさ、あたたかさ、桃の花をバックにしたすがすがしさが手に取るように見え、うれしく思い、特選とさせていただきました。以上よろしくお願いします。

伊藤　幸

特選句「三の谷四の谷どこも蝌蚪の時間」上中下どのフレーズをとっても文句なし上手い。生まれ出づる春の息吹が歌のように響く。「背に羽根の記憶残れり春来たる」青春の真っ只中にいた時、飛べると思った記憶。もう一度蘇らせてください。「雛の間にゐてわたくしをしまふ箱」様々なしがらみの中で女を忘れねばならぬと決意。でも女は灰になるまで女ですよ。少々受け狙いの気配あり。「湯灌ありふいに脈打つ紫木蓮」受け入れられぬ身内の不幸。息を吹き返してほしいと願う祈りのようなものが窺える。紫木蓮が効いている。「流さずにあれば吾にも古雛」天災で失くした雛人形。同病相憐むで一票投じました。「自叙伝の斑雪には塩をふる」長い人生の一つや二つの汚点。それ等を含め現在の自分。消し去る必要はない。下五の表現に疑問「子離れやうすむらさきの水鏡」巣立ちを頭の中で理解していても晴れない気分を写す水鏡。うすむらさきの効果大。

小山やす子

特選句「丸木舟まだ山にあり青葉潮」ノアの箱船の永遠を思います。青葉潮が良いです。「春星をラクダが食べたがってゐる」春の夕方大きく垂れる美しく瑞々しい北斗七星を連想します。ラクダに思いを寄せた手腕。

稲葉　千尋

特選句「啓蟄や八十年をにんげんで」・・「八十年をにんげんで」の措辞の良さ。特選句「春の星ちゃぶ台だけのワンルーム」独身時代のアパートを想い出す。春の星に希望が見えて佳い。

野田　信章

特選句「砂塵にすみれサムライの弔歌かな」は「サムライ」と片仮名書きすることで、「砂塵にすみれ」と相俟って単に武士(もののふ)の亡びの美学的修辞に終っていない。そこには、現代を生き抜く者の批評精神をも加味されていることに気づかされる。大きく右傾化する昨今の社会情勢の中で、心情的にも個々の深部になお生き永らえている真のサムライとはとの自問自答を促すものが句の根底にある。芭蕉のすみれ、漱石のすみれとも異なる視点こそ現代である。問題句「湯灌ありふいに脈打つ紫木蓮」は。「湯灌あり」では、中句以下の「ふいに」と把握した紫木蓮の形態「そのものが因果的関係で受けとめられてしまう点が惜しまれる．中句以下の素敵な把握(発見)を偶然性において再生されることを期待したい。

郡　さと

「イヌフグリ地の星九条永らえよ」・・「いぬふぐり星のまたたく如くなり　　虚子」」　なる句がある。いぬふぐりを星に見立てる句はあまたある。類想をまぬがれぬ。あえて反戦句　としてもらっつたが？。「神の山佛の谷と恋の猫」うちの飼い猫は母にも女にもなれぬ猫。何と猫の恋を言い当てていること。「関取は美男子揃い桜鯛」相撲ファンです。美男子の勢がいい。優勝した関取が鯛を掲げた写真をよく見る。季語、桜鯛が他にもっと気がきいたのがあるような、、、

亀山祐美子

特選に「空海忌いきなり風の万華鏡」を頂いた。陰暦三月二一日だから今より暖かく春爛漫の時節。青葉若葉も勢いを増すころ青嵐とも言える突風が吹き世界を万華鏡の煌めきに変えた。『空海忌』と置く事で森羅万象の命の煌めきがより増し大らかな力強い一句となった。佳句。もう一句の特選に「菜の花が体を通り過ぎて雨」を頂いた。雨の日の春愁が十分に言い得ている。菜の花の明るさが愁いをいや増し雨が不安を増幅させる。上手い句だ。「桜咲いて向こうに人のいない町」福島の事かと思う。『桜咲く』なら特選で頂いた。「〜して」はやはり弱い。理屈が勝っている。残念だ。「春暁やじゃがいもの皮を厚く剥く」の『じゃがいもの皮を厚く剥く』の『を』は不要。無い方がリズミカルだ。『を』で躓いてしまう。残念だ。逆選の「朧てふ散らばるものを束にする」下五中七の捉え方が見事なだけに上五の『てふ』が気にかかる。楽をしてはいけない。ここがこの句の胆だ。朧の説明に終わってしまった。残念だ。『月朧』『海朧』『島朧』『町朧』等々あなたの琴線に触れた物に語らせるべきだ。他に「どれにしやうかな」「見に行こう」「食べたがっている」…�ｵ「いる」は旧仮名遣いに訂正して下さい・・…「大和民族ならば」等々、作者の希望願望理屈か前面に出て読み手に想像の余裕がない。私は、作者では無く詠み手でありたい。小言幸兵衛のような選評になってしまいました。海程には海程の詠み方があろうかと思いますが、感動の表現の攻めぎ合いで楽な方へ流れて行くと個性が失われるかと思います。句評しながら、天に唾吐きながら、自己反省の日々です。→真摯なご指摘、勉強になります。「海程」の詠み方っていうのは無く、金子先生は、いつも、「ご自由にお創りを！」と講評の中で、言われます。

銀　　次

今月の誤読●「雛の間にゐてわたくしをしまふ箱」。まあ、なんてデカダンな句なんでしょ。この句の作者ってそうとうのヘンタイさんね。まず「雛の間」ってのがインビよねえ。お雛さまって要するに男女がつがいとなった人形でしょ。そんなものでなにして遊ぶのかしら？　んもう、想像するだけでヤらしい。だいたい人形愛、ピグマリオンコンプレックスって普通の異性で満足できないひとが陥る愛のカタチでしょ。意思を持たないものが好き。江戸川乱歩に「人でなしの恋」って作品があったけど、あれも人形愛がテーマだったわねえ。それに雛祭りって幼女のためのイベントよねえ。ロリータの宝庫。ロリコンにはこたえられない風景でしょうね。そんでもって「わたくしをしまふ箱」。ここには閉所願望が見られるわ。同じく乱歩の作品でいえば「化人幻戯」だし、あと箱のなかに入ってすることといえば、それはもう窃視（のぞき）に決まってる。乱歩でいえば「屋根裏の散歩者」だし「人間椅子」の要素もありそう。とにかくわたしが愛してやまない乱歩の世界を十七文字に凝縮しちゃうなんてお見事よ。エロとグロの遊びって大好き！　ねえ、今度ご一緒しませんこと？

小西　瞬夏

特選句「春星をラクダが食べたがってゐる」「春星」とラクダの取り合わせ。散文的にすっと流れているが内容は屈折してしる。「なぜ」「なんのために」と途中で思考がぎざぎざする。最後の歴史的仮名使い「ゐる」もその屈折を助長させている。「春星」の描写、ラクダのありようとして新鮮。イエスが生まれた日にラクダにのって星を目指して救い主を求めていく世界も重なる。

谷　孝江

特選句「雛の間にゐてわたくしをしまふ箱」私の子供の頃は(一九三二年生まれ)今のようにどちらのお宅にもお雛さまが無くて、お雛様を飾ると近所の子たちが大勢遊びに来てくれました。祖母から雛あられを貰い楽しくて、賑やかでそして少し、誇らしい気持ちになれた一日がありました。その分雛飾りを片付けた後の淋しさは一入です。今でも心の一隅にあの当時の私を仕舞い込む箱があったらよかったのにな、と思ったりすることがあります。この句の「しまふ箱」とは思いが違うかも知れませんが遠い遠い日の出来事をいま一度思い出させてくれました。特選句「痛みには貼ってよく効く朧月」日中は車の賑やかな通りも夜九時を過ぎると落ち着いてきます。玄関の鍵を確かめに出た時、雨さえ降っていなければ外へ出ます。前庭の木々の芽吹きの匂い、街路樹の新芽の匂い、沈丁花の香り、そして朧月、それらに包まれてなんて平和って良いものなんだろうと誰にともなく（ありがとう）と言いたくなってきます。どんな傷だって忘れられる一刻です。平和って大切ですね。今月も佳い句をたくさん見せていただき有難うございました。

桂　凛火

特選句「春の部屋吊るして闇となる喪服」吊るして闇となるで、とても実感が伝わりました。素朴に書かれているのですが、気持ちの伝わる句でした。

田村　杏美

特選句「切株に石に人座す藪椿」行楽でのほっこりとした光景が目に浮かびました。四国ではあちこちに、四国ミニ八十八箇所(お地蔵さんをめぐるハイキングコース)がありますね。小さい頃から、お花見弁当をもってこの八十八箇所をめぐるのが、実家での毎年恒例の行事でした。ベンチに座って休む人もいれば、お弁当を食べる人、景色を楽しむひともいて、この切り株や石からはそんな人たちの思い出みたいなものも感じ取れるようです。

中西　裕子

桜が開き始めましたね。我が家の前にも古い桜があるので楽しみです。特選句「トラの目に私が映つてゐて春霖」雨の日に動物園に行ったのでしょうか。トラと見つめあって、ちょっと不思議な場所にいる感じ。トラに映ってる自分は寂しそうなのかかったるそうなのかな。と考えてしまいます。「空海忌いきなり風の万華鏡」風が吹いて花びらがまったのか万華鏡のような幻想的な風景が浮かびます。「天地に目玉ばかりや水温む」水温む頃、いろんなものが誕生し目玉がめだちますよね。春をあらわしている句と思います。「鉄運ぶ戦果てなし野水仙」戦の地でも、やっぱり花は咲いていると、人間の愚かさが胸にこたえます。春の句がいっぱいで、やはり暖かくなり花が咲くとうきうきしますよね。句を作るエネルギーとなりますように。

高橋　晴子

特選句「空海忌いきなり風の万華鏡」空海という人物に対して風の万華鏡という面白い表現で心情が良く生かされている。新しいい感覚の句。特選句「イヌフグリ地の星九条永らえよ」イヌフグリは春の到来を感じさせる、いかにも地の星というイメージがある。平和を象徴して九条永らえよという思いが生きる。問題句「九条の懐にいて梅ふふむ」ただ九条だけでは、ましてや懐にいてだと、京都や旭川の地名にもとれる。梅ふふむも甘い。憲法のことをいおうしているのだとすると、もっと覚悟をした表現が欲しい。例えば　　　　　　　　　　　　憲法九条座敷に椿(カメ)象(ムシ)もいる気配　　　　安西　篤

野�ｱ　憲子

特選句「菜の花が体を通りすぎて雨」不思議な沈黙を、この作品から感じます。一面の菜の花畑に佇つ作者の透けて行く姿を目の当たりにするような思いに捉われます。羽音もどこからか聞こえてきそうです。そして時間の経過を告げるような雨音が読者の心にも響き渡ります。一読、私は「菜の花の」と軽く切れるソフトな響きが良いと思いましたが、何度も読んでいますと、「菜の花が」そして「体を通りすぎて」と畳み掛けるような「ＧＡ」「ＫＡ」「ＧＩ」音、そして最後の「ＡＭＥ」の潔さにドラマを感じてまいりました。問題句「肉と雲はざまへすっと蝶の影」句会へ参加されていた作者は、「聖と俗の世界」を表現していると話していました。しかし雲も肉に思える俗物の私には、そうは思えなかった。蝶も付き過ぎているように思える。でも、とても気になる句でした。問題句「春おぼろ山に五郎助未老年」「山に五郎助未老年」の措辞の面白さに惹かれつつも、よく分らなかったです。今回も佳句満載で、絞り込むのが難しかったです。勉強になりました。感謝です。

袋回し句会

茶

茶色から緑に変わり春へＧＯ！！

尾崎　憲正

茶を呑んで八十八夜の月となる

柴田　清子

春月の真ん中にあり楽茶碗

野�ｱ　憲子

卒業

卒業期ダイヤモンドの腐乱臭

増田　天志

卒業す風のボタンを握りしめ

野�ｱ　憲子

野

春の野や疑問だらけで見る地球

三枝みずほ

陽炎や野にこつぜんと幽霊船

増田　天志

春の野にいらだち吼ゆるトイプードル

野澤　隆夫

雲

雲行きの悪さ気にしておりにけり

��木　繁子

キリン連れ日長一日雲の中

尾崎　憲正

五線譜に書き留めてゆく雲雀かな

増田　天志

雲雀笛白き読書のうなじかな

三枝みずほ

春の雲あからさまなる言葉好き

野�ｱ　憲子

時計

生涯に時計はひとつ鳥雲に

三枝みずほ

時計師が歯車に差すちさき虫

銀　　次

文字盤に若草もあり花時計

尾崎　憲正

腹時計まだ十時なる桜もち

野澤 隆夫

れんげ畑

れんげ畑尾崎さん見え元気でる

��木　繁子

げんげ田の日暮れはこども産み落す

柴田　清子

あかんぼの寝息どこかにれんげ畑

銀　　次

天使

乳形の讃岐の山や梁天使

尾崎　憲正

天使堕つ赤ちょうちんのコップ酒

銀　　次

春昼の天使の顔がのっぺらぼう

柴田　清子

句会メモ

今回、「海程」熊本の伊藤　幸さんが初参加されました。伊藤さんとは、先月の、大阪での「海程」関西合同句会や関西スクールでも、お会いしました。火の国、阿蘇の情熱的な俳人です。よろしくお願い申し上げます。

「句会の窓」にも書かせて頂きましたが、滋賀から増田天志さんが、青春１８切符でいらっしゃいました。柴田清子さんも、久々にご参加され、笑いの渦が巻き通しの、楽しい句会でした。これからも、ご参加を楽しみに致しております。

来月は、五十回目の句会となります。振り返ればあっという間の五年間でした。ご参加の皆さまの御蔭さまです。ありがとうございます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

野�ｱ憲子記