香川句会報 第50回(2015.04.18)於、サンポートホール高松

事前投句参加者の一句

おろかなるわれらの進化春土竜 稲葉 千尋
手つないでゐねばはぐれし朧の夜 小西 瞬夏
追い込みの選挙カーです花吹雪 木 繁子
オンホロホロ咲くやこの花初心にかえろ 加藤 知子
惜命や円き月あり花の下 尾崎 憲正
母に似る骨格すべる春ショール 若森 京子
海が溢れぬように鏡を伏せて春 月野ぽぽな
けふよりは燕の空となりにけり 景山 典子
地球儀のゆつくり回る啄木忌 高岡 晶美
産声は太陽の声山笑ふ 三枝みずほ
春陰の古書店にある火の匂い 重松 敬子
雨上り藤に藤色滲み出づ 高橋 晴子
思い出すままごと遊び花筵 漆原 義典
プレリュード聴きて芥(ごみ)出し花の雨 野澤 隆夫
春夕焼母の背中に茶の匂い 藤田 乙女
うぐいすの本鳴き身辺雑然と 野田 信章
酸葉噛む雲水に瀬の音どっと 矢野千代子
春愁や子を預かりし娘(こ)の便り 中西 裕子
腹筋を軋ませている土筆の子 増田 天志
春行くや肩の尖りも円くなる KIYOAKI FILM
竜天の尻尾をつかむ肉感的 桂 凛火
御所桜何も語らず傘の波 古澤 真翠
切り株の白さてふてふ生れにけり 亀山祐美子
哀しくてしょっぱい遺伝子春休み 中野 佑海
れんぎょうの真昼じんじんとちちふさ 伊藤 幸
かざぐるま淋しいときは左向く 谷 孝江
チユウリツプ一片くづれそれつきり 郡 さと
CT図に物の芽癌て宇宙やなあ  竹本 仰
花の空大きな眸の深海魚 小山やす子
アネモネの赤い視線がうしろから 柴田 清子
蝶の昼黒子のひとつは奈落です 三好つや子
駅舎ごと花に喰はれて駅長絶叫 銀    次
鏡には映らぬ戦夕櫻 野ア 憲子

句会の窓

小西 瞬夏

特選句「海が溢れぬように鏡を伏せて春」・・「に」と「を」はなくてもいいかな、とも思いつつも、この散文的なリズムが逆に効果があるのかとも思ったり。静かな美しい海も、ときどきは恐ろしい脅威となって溢れてくる。そして、この「海」は作者の内面の何かかもしれない。それが溢れないようにするために何ができるのか。ほんとうは何もできないのであるが、作者は「鏡を伏せる」ということを思いついた。その発見。鏡が象徴する何か。そしてそんな波乱万丈な季節は春なのだ。問題句「蝶の昼黒子のひとつは奈落です」「です」がやや甘いし、その分の「奈落」という言葉がなにか技巧的に感じられる。けだるい蝶の昼の気分を「黒子」というものに託して描写しようとされている、その世界は魅力的なのですが。4月香川句会大変お世話になりました。また、50回開催おめでとうございます!海程の先輩方にお会いできる機会の少ない私にとって、憲子さんと香川句会のみなさまはとても貴重な存在です。句会でもとても自由な意見交換があり刺激的でしたし、私も言いたいことを言わせていただける雰囲気がありがたかったです。それから、憲子さんのお母さんの存在も、なんだかとてもほっとするようで、いいですね。これからもよろしくお願いいたします。→18日の句会には岡山からご来高くださり有難うございました。とても、嬉しかったです。こちらこそ、今後とも宜しくお願い申し上げます。

野澤 隆夫

4月が50回目の節目だったのですね。おめでとうございます。毎回、和気藹藹で句会ができるのは野アさんの人徳によるところ大いにと、感謝いたします。特選句「駅舎ごと花に喰はれて駅長絶叫」…満開の桜にローカルの駅が乗っ取られ、駅長さんが絶叫するという、何とも面白い句です。何となくJR鬼無駅を想像しますが、あそこの駅に桜の木はあったかな…?問題句「CT図に物の芽癌て宇宙やなあ」…つぶやきの句でしょうか。素人には分りづらい断層撮影を物の芽≠ニ読み、その中から癌≠発見するという作業。ドクターは天文学者でもあるのでしょうか。それに感動した作者。すごいと思いました。→こちらこそ、お陰さまでございます。ご参加の皆さまの笑顔が、何よりの活力源です。今後とも、宜しくお願い申し上げます。

月野ぽぽな

特選句「産声は太陽の声山笑ふ」自然の息吹と直結してる赤ちゃんはまさにそのエネルギー源である太陽の申し子。山々を代表する地上すべてのものが歓喜している。前向きな世界観・生命感が神々しく作品として結実している。

景山 典子

特選句「三月の海とは果てしない墓標(月野ぽぽな)」4年前の東日本大震災のことが意識されていると思いました。いまだに行方不明の人たちがいます。悲しみ、追悼はこれからも果てしなくつづくと思います。問題句「地球儀のゆつくり回る啄木忌」何となく気になり並選にしたかった句なのですが、「啄木忌」と上五中七の部分との関係性について、今ひとつピタッと来ないものがあるのであえて問題句としました。以上です。よろしくお願いいたします。六月には吟行句会で皆さまにお目にかかれるのを楽しみにしています。ますますのご健吟を!

尾崎 憲正

特選句「けふよりは燕の空となりにけり」南から渡ってきた燕が秋まで日本で暮らします。空を縦横に飛び、さかんに虫を集めて次世代へと生命を繋ぎます。今日からの空は燕のためにあるようだと作者は感じられたのでしょう。作者の目の確かさと生き物に対する優しさに溢れた句だと思いました。

古澤 真翠

特選句「春陰の古書店にある火の匂い」古書店をたずねることの好きな作者が、春先の気温に反応した本の独特の匂いに 臨場感が伝わってきました。火の匂いと表現された言の葉に、しっとりとした作家風な出立を感じました。どんな方の作品なのでしょうか…。

竹本 仰

特選句「鏡には映らぬ戦夕櫻」・・「見渡せば花も紅葉もなかりけり」という響きがあり、戦の過去の回想、そして未来の予感を言い止めていると思いました。「夕櫻」という妙に中世的、古典的な色合いが、この句に時間性を見事に注し込んでいると思えましたし、それは、とりもなおさず「いずれが幻視か?」と問うまなざしとも受け取れ、この静けさが、生起、そして生死をひめたみなぎる静けさではないかと。鏡と現実との間にある、あるなまなましい空気感というんでしょうか、それを感じました。問題句「切り株の白さてふてふ生れにけり」切り株という傷から「白」経由で、てふてふと軽く飛ばすあたり、俳味がありいい句です。しかも、「生れにけり」と何というか、そういう法則だよと、軽くいなしたあたりは心にくくもあります。ただ、何となく、冨澤赤黄男の「切株はじいんじいんと ひびくなり」を踏まえているとするならば、うまく詠みきってしまった遺憾を感じるところがあります。芭蕉翁の言う、言い終えて何かある感というのか、そういうものを欲しくさせるのです。独断で申し訳ないですが、てふてふの白さは切り株なんだよ、という方がいいのではないか。櫻の美しさは屍體が埋まっているからなんだよ、というような。でも、この句はいいですね。視覚的に無理のないイメージがありますし、てふてふには、生まれ方のその感触のようなものさえうかがえますし。ところで、今回が第50回だったのですね。大変なことだと思います。いつもありがとうございます。→お陰さまです。個性豊かな方々のご参加で、句会が、ますます面白くなってまいりました。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

加藤 知子

特選句「うぐいすの本鳴き身辺雑然と」鶯の妙なる音色を聴けば、自分の身辺の雑然とした様子が際立ってくる。その対比で鶯のあの声を巧みに表現された。特選句「摩天楼すこし蜃気楼に還す(月野ぽぽな)」人を寄せ付けないような人工のものを少しだけ曖昧なものにすることによる優しさ。摩天楼を人間にみたてて味わうと楽しくもなれる。「〜楼」と「〜楼」、美味い発見だと思う。問題句「駅舎ごと花に喰われて駅長絶叫」下7(8)の部分は、少し離れて、軽く裏切ってほしいと思いました。

増田 天志

特選句「うぐいすの本鳴き身辺雑然と」対比バランスの感覚の良さ。

桂 凛火

特選句「鏡には映らぬ戦夕櫻」心理戦の静かな戦いが一番こわいですね。鏡に写っていると表現したところがよかったと思います。微妙な心の綾が出ていると思います。問題句「アネモネの赤い視線がうしろから」アネモネには視線がないと思う のですが・・・。というところにつまずくと読めないのですが、私には、妙にリアリティがありました。アネモネの花から想像したのか想像力が刺激されてよかったです。

三好つや子

特選句「春眠や瞼沢山鍵の束(中野佑海)」眠そうな生徒達を前に、あの手この手で眠らせないよう授業を進めている先生を想像。「鍵の束」が面白いです。特選句「哀しくてしょっぱい遺伝子春休み」進級や卒業などで、クラスメートとの別れが多い十代の春。「なごり雪」とか「高校三年生」の歌詞を重ねて鑑賞しました。問題句「CT図に物の芽癌て宇宙やなあ」特選に近い魅力的な句。CT画像に映る物の芽だけで、癌のことを想像させるので、あえてこの言葉を入れなくていいのでは・・・と思います。

柴田 清子

四月投句、九十九句から選ばせて貰った、十一句は全て私の特選としたいところです。その中の、『切り株の白さてふてふ生れにけり』を、特選としました。『切り株の白さ』の捉え方が、抜群!あとは、蝶の誕生だけ。余分な事は、省略、最后の切れ字で、一句を響かせていて,体の芯まで、この句の余韻で気分よくしています。『チュウリップ一片くづれそれつきり』桜や椿、他の花とは終り方が違ふのネ。『それつきり』の五文字で、端的に言ひ表していて珍しい句、クスッと笑ってしまいました。『昼顔は昼の隙間であるといふ』昼顔 昼の隙間、こんな隙間の昼顔ならもどれなくてもいいから水音の近くに咲いている昼顔になりたいと思った、不思議な句で大好きです。

稲葉 千尋

特選句「れんぎょうの真昼じんじんとちちふさ」連翹の盛りの感覚を「じんじんとちちふさ」と捉えた作者、おそらく女性特有の感覚。特選句「鏡には映らぬ戦夕櫻」きれいな夕桜、そしてそれを写す鏡、でも世界のあちこちの戦は映らぬ。当り前だけど、映って欲しくない、戦はいやという作者の思い。先日、久しぶりに関西合同句会へ行って来ました。関西の人に会えて嬉しかった。全国大会でお会いしましょう。(俳句道場も行って来ました)宜しくお願いします。→道場でお目にかかれて嬉しかったです。翌週の合同句会にもご参加されたのですね。凄いです。来月の熊谷での全国大会でお会いするのを楽しみにいたしております。こちらこそ、今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

若森 京子

特選句「水蜘蛛や母を忘れし母の指(三好つや子)」水上をすいすい泳ぐ長い足を見て、母のしなやかな指を思った。指のしぐさから母を思い出した瞬間。水蜘蛛の季節感も透明感がありポエムを情感と共に昇華させている。特選句「囁きの群れて尖れり耳菜草(桂 凛火)」ねずみの耳に似た耳菜草が囁き合って群れている様子が、まるで生き物の様に尖っている。平明な中に自然と呼応している作者が見える。

重松 敬子

特選句「けふよりは燕の空となりにけり」嬉しいことの一つに、燕の飛来。小さな丸い頭、かわいい声、それでいて、あのシャープでダイナミックな飛翔!この句は一言の無駄なく、この爽やかな季節の到来を表現している。

中野 佑海

特選句「腹筋を軋ませている土筆の子」何故か気になる土筆の軸の段々を面白く表現していると感心致しました。「軋む」って、腹筋運動しているのでしょうか?はたまた、1日でも早く大人に成ろうと焦っているのでしょうか?凄く情景が笑えます。問題句は97、「駅舎ごと花に喰はれて駅長絶叫」上五中七は凄く良くて期待感持っていました。「絶叫」の所もう少し他の何かのほうが良いと思います。何かは分かりません。

郡 さと

特選句「オンホロホロ咲くやこの花初心にかえろ。」今だに迷っている俳句づくり。初心にかえりオンホロホロ心のまま、報告じゃなく自分の詩の世界を作りだしなさい 、と教えてくれた、忘れていたこの言葉を思いだした。有り難う。「哀しくてしょぱい遺伝子春休み」「産声は太陽の声山笑う」「春愁や子を授かりし娘の便り」十人十色。常識、って何だろう。春愁て誤字かなと思ったが、これも一人の真実。考えさせられた。「虹の谷」、「大きな眸の深海魚」、虚を実に、上手に作れていいな。月並な句と、言葉の響きと技巧にのっかかり、意味不明の句があるようだ。→勉強になります。

KIYOAKI FILM

特選句「山吹やゆびとゆびとに架ける橋(銀次)」僕の父は詩歌が好きで、時に「俳味が…」と言う時がある。父は俳句を正式に書いているのか?誰にも見せたがらないので解らないけど、「俳味」、と、言う。それでこの句に、俳味を感じました。「ゆびとゆびとに架ける箸」…橋のキャッチフレーズっぽい中七下五と、「山吹や」…という呼吸がぴったり、響きます。問題句「プレリュード聴きて芥出し花の雨」この句を問題句に選ばせて頂きましたが、問題は自分の俳句観、僕の知識のなさ、僕のだるさ、疲れ、病だと感じ得た。従って、特選句、問題句、と言える資格が自分にはない。ただ、とても気持ち良かったです。語感が。読んで、魅かれました。「芥出し花の雨」に寒から春へ入った、花の雨の、解放感が感じました。「プレリュード聴きて」も好きです。今回は問題句と云うより、単純に面白いです。

三枝みずほ

特選句「犬も猫も踊り狂へり花吹雪(銀次)」人間はもちろん、動物さえも踊り狂わす花吹雪。花吹雪だからこそ可能な世界観だと、共感しました。

谷 孝江

特選句「春夕焼母の背中に茶の匂い」働き者でつつましいお母さまの姿が見えてくるようです。日本の母の姿かも知れません。特選句「哀しくてしょっぱい遺伝子春休み」腕白盛りのお子さんでしょうか。良いところは全部私(俺)似、その他は・・・。どこのご家庭でも見受けられる賑やかで楽しい日常風景でしょう。お幸せに。

野田 信章

特選句「春眠や瞼沢山鍵の束」は天恵ともいうべき春眠を「瞼沢山」とそこに無造作に置かれている鍵束に見出して情を通わせているところが俳諧だ。問題句とした「なめくじらふくしまを出る人ばかり(稲葉千尋)」は、福島のその後に思いを持続させている句として注目。ただそのことを「人ばかり」と一括して結句されていると、この句の題材として選択された「なめくじら」の活用も薄らぐと思える。今なおこの地にとどまって復興に尽力されている人々がいる反面で、やむなく故郷を離れざるを得ない人々がいる。この句の主題は後者の人々の上に在る。そこに身を寄せて現実感のある心情の表出をもこの「なめくじら」なら可能にしてくれる筈だと期待するものである。

小山やす子

特選句「迫りくる尿意のひとつ春はあけぼの(加藤知子)」は自分が感じる起き抜けのもぞもぞした気分を上手く表現していただいたと思いました。「山吹やゆびとゆびとに架ける橋」綾取りの遊びを連想しました。山吹の語感が良いと思います。

亀山祐美子

「海程」香川句会第五十回おめでとうございます。九九句。盛会でなによりです。6句頂きました。二三日空けると、違うものを感じるかなと思いましたが、身に染みてきませんでした。私の感性が鈍いのでしょう。近頃は、何を見ても聞いても、何をしても驚きません。“ときめき”が枯れてしまったのでしょう。困ったものです。特選句『産声は太陽の声山笑ふ』お孫さんでしょうか。おめでとうございます。めでたさを手放しに喜べる明るさが好きです。毎回皆様の句評で、かちんこちんの脳みそに喝を入れております。『目から鱗』の俳評を楽しみにいたしております。→お陰さまです。このところお目にかかれていませんが、お元気そうなご様子安堵いたしました。六月の吟行合宿にご参加とのこと、嬉しいです。二日間俳句三昧で参りましょう!楽しみにいたしております。

漆原 義典

特選句「産声は太陽の声山笑う」とさせていただきます。この句は、赤ちゃん誕生の喜び、うれしさ、感激が強烈に感じとれる素晴らしい句だと思います。スケールの大きな句で楽しいです。作者の心に感動しました。ありがとうございました。問題句はありません。

銀   次

今月の誤読●「葉山吹乳房重しと縦いていく(矢野千代子)」。さて、以下がなんだかわかりますか? 「咲本聖」「柳明菜」「上西惠」。まあ、名前ですね。ではどういうお方の名前でしょう? はい、オタクのあなた。そうなんです。みなさん水着アイドルの方々なんですね。もっとも句の冒頭に記された「葉山吹(ハヤマスイ)」さんはあまり有名どころじゃないようですね。新人さんなんでしょうね、きっと。「乳房重しと」とありますねえ。いまどきの子ですからGカップ、Hカップがごろごろいるんでしょうね。重いんですってね、けっこう。肩が凝るっていいますもん。それが野外ロケだか海岸ロケだかで、カメラマンのあとから「チョー暑い」とかいいながらガウンを脱ぎ捨て、水着のまんまで「縦いていく」と。いやはやなんとものどかで、こころ温まる風景を詠んだのがこの句です。蛇足ですが、わたくし大昔友人のグラビアカメラマンのお手伝いをしていたことがあるんです。カメラマンと助手さんはロケハンを兼ねているから先頭をいくんですけど、その他の有象無象(たとえばわたし)はレフ板(反射板)や替えの衣装を持ってますから一行の後方をいっていいんです。会話はどうしても目の前をゆくモデルさんの品定めになりますわな。「いい尻してまんなあ」「しゃあけど片ケツちゃいますか? 右のほうちょっと下がってまっせ」。このアルバイト、一年ほどでやめました。カメラマンにいわれたんです。「年中オンナの裸見てると、なんも感じんようになるで」。それはヤバい。即やめ。いいバイトだったんだけどなあ。

中西 裕子

特選句「雨上り藤に藤色滲み出づ」藤色が素敵な色ですし、藤の花も好きです。雨上がりで、花もまわりの緑も鮮やかでしょうね。「花過ぎの朝の光の中にゐる」も、言葉、情景が美しくて好きでした。なぜ、自分の中から美しいことばが滑り出てこないのか、もどかしい気持ちです。1ヶ月ぶりの句会またいい雰囲気で、楽しく参加させていただきました。

高岡 晶美

特選句「三月の海とは果てしない葛藤(月野ぽぽな)」、静かで、でも力強い句で、思わず納得してしまいました。「果てしない」は「海」と「墓標」の語に通ずるものがあり、寂寥感が滲みます。特選句「腹筋を軋ませている土筆の子」・・「土筆の子」の先端だったり茎の模様だったりが「腹筋」に見えるというのは新しい視点でした。「軋ませて」笑うように、伸びてゆく「土筆」が見えてきます。「訪れし戸口に筍積まれおり」「朝市のすかんぽの茎少年期」は故郷が思い起こされ、とても懐かしくなりました。

高橋 晴子

特選句「酸葉噛む雲水に瀬の音どっと」酸葉噛む雲水に野趣を感じて瀬の音を感じとった。どっと、という表現に、その時の作者の心が響きあう。問題句「哀しくてしょっぱい遺伝子春休み」子供の動作に、自分に似たものを感じたのだろう、それを「哀しくてしょっぱい」で、表現したのだと思うが、もっと具体的にわかれば、いい句になる。

伊藤 幸

特選句「おろかなるわれらの進化春土竜」日進月歩、著しく進化する現代。進化すべきでないものもある筈。生態も容貌もそれ等とは程遠い土竜の存在が愛しく思える。他称人間とせず自称われらと懺悔の意も含まれていて思わず共感してしまう。「海が溢れぬように鏡を伏せて春」大津波が再び来ぬようにと婉曲な表現。俳句ならではの技に一票。 「うぐいすの本鳴き身辺雑然と」やっと鶯が本鳴きを聞かせてくれるようになった季節感と作者の身辺との対比。私には悲鳴のように聞こえるのだが…。「青き踏む最晩年の一過客」最晩年が事実であれば余りにも寂しい。青き踏むと晩年の取り合わせ絶妙。「昼顔は昼の隙間であるといふ」昼顔は昼に咲く明るい花であるにも拘わらず何か物悲しい雰囲気を漂わせている。特徴を昼の隙間と表した効果大。「新じゃがの粒そろいなり性善説」人の本質は善や悪や。秩序整然なるを見て作者は本質は悪であると説くが、私は揃いも不揃いも性善説を唱えたい。新じゃがの物質感で事を大袈裟にせず救われる。「鏡には映らぬ戦夕櫻」夕日に染まる桜、花吹雪、何と美しい景であろう。うらはらに毎日ニュースで報道される数多の戦、テロ。我々に今出来る事は何か?為す術も無く日は暮れていく。句全体から事実の見えぬもどかしさが伝わってくる。問題句なし

藤田 乙女

仕事の忙しさを言い訳にして、半年間お休みさせていただきましたが、また、作句することにいたしました。よろしくお願い申し上げます。今回、「春夕焼け母の背中に茶の匂い」と作ったのですが、これは、新茶の茶摘みから帰ってきた母に2年生の子がおんぶをせがみ、その時のことを日記に「お母さんの背中はお茶の匂いがしたよ。お母さんが年をとったら、今度は、私がおんぶしてあげるよ」と書いてきたのを思い出し作りました。ずっと母の帰りを待ち、思わずとびつきおんぶをしてもらい、にこにこしている子と子どもの顔を見て茶摘みの疲れもとれたであろう母親との心のふれあいを表したかったのですが、上手くできませんでした。

野ア 憲子

特選句「手つないでゐねばはぐれし朧の夜」一読、「何だコレハ!」と思いました。十七音に無理に押し込めたような書き方。私なら上五は「手をつないで」とするし、「はぐれし」は「はぐるる」が順当、でも、この掟破りな表記が、朧夜の不気味さを、主人公の寄る辺ない顔を目の当たりにするような小気味よさを感じました。未来への可能性を孕んだ作品と思いました。問題句「駅舎ごと花に喰はれて駅長絶叫」の「絶叫」が、お見事です。この奇妙奇天烈な世界がまさに櫻時、ですね。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

踊るほど足の擦り減る朧の夜
小西 瞬夏
春の闇足音濡れる廊下かな
三枝みずほ
土中より足が生まれて天を蹴る
銀   次

昼寝覚めこの背中ぢゆう蕨めく
小西 瞬夏
雨上がり地球突き抜く蕨かな
漆原 義典
蕨咲くこの日頃なり歩くなり
木 繁子
大声の一家なりけり蕨山
景山 典子

海苔巻のはしつこが好き花見酒
景山 典子
ぎゅんぎゅんと空とりこんで花ひらく
野ア 憲子
花は春鬼を殺して鍋で煮る
銀   次
花吹雪ロバのパン屋がやって来る
景山 典子

帰ろかな帰るのよそふか花の駅
野澤 隆夫
球体関節人形のまばたき花の駅
野ア 憲子
青鮫も狼もゐる花の駅
野ア 憲子
筋書きを変へて朧の夜の駅
小西 瞬夏

お妃のどこか憂ひの春ショール
景山 典子
春うららお豆腐一丁くださいな
三枝みずほ
球児らのはにかむ顔に春の風
野澤 隆夫
春冷えの駅で何度も時計見る
中西 裕子
懸案の事山積みで春が行く
中西 裕子

春惜しむ

耳たぶの春を惜しむといふかたち
小西 瞬夏
春惜しむ梅も桜もさようなら
漆原 義典
春惜しむ水族館への地下通路
三枝みずほ

句会メモ

第50回「海程」香川句会。正直、こんなに続けられるとは、思っていませんでした。ひとえに、「海程」、そして、金子兜太先生という光源の下、ご参加の皆様方のお陰さまです。これからも、一回一回の句会に全力で臨んで行きたいと思います。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

18日の句会は、岡山より小西瞬夏さんもご参加くださり、和やかな中に、ぎらりと光る、鑑賞や、意見が飛び交い、実に充実した句会になりました。この4時間の句会が、何か新しいものを生み出す力になって行くように強く感じました。

例年通り、5月は、「海程」全国大会の月でお休みです。次回は、6月20日、21日の「海程」香川句会発足5周年記念吟行合宿となります。事前投句は、いつも通り行います。今から、とても楽しみです。詳細は、「句会案内」をご覧ください。

野ア憲子記
inserted by FC2 system